日本で分離されたPeaton virusの性状解析

要約

1999年に,九州で牛およびヌカカから分離されたウイルスを,血清学的解析によりPeaton virusと同定した。日本株とオーストラリア株のヌクレオカプシド遺伝子の塩基配列は8%程度の相違が認められた。

  • キーワード:牛,家畜衛生,異常産,アルボウイルス,系統解析
  • 担当:動衛研・九州支所・臨床ウイルス研究室
  • 連絡先:099-268-2078
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

近年,九州・沖縄地域では牛アルボウイルスの流行が毎年確認されている。また,日本でこれまで分離されていないウイルスの侵入や病原性の変化も危 惧されるため,流行ウイルスの監視および分離ウイルスの血清学的・遺伝学的性状の解析が必要である。1999年に長崎県および宮崎県で ,牛およびヌカカから既存の流行ウイルスとは異なるウイルスが分離された。分離ウイルスは血清学的解析により,Peaton virusであると同定された。今回の分離によって東アジア地域にもPeaton virusが広く浸潤していることが推測され ,今後の診断,疫学調査のためにも分離ウイルスの性状解析を行う事が重要であると考えられた。本研究では,オーストラリア株および日本分離株のS RNAセグメントの塩基配列を決定し ,両者の遺伝学的関連を明らかにすると共に,他のシンブ血清群に属するウイルスとの系統関係についても解析を行った。

成果の内容・特徴

  • 長崎県で牛より分離されたNS-3/P/99株および宮崎県でヌカカより分離されたMZ-4/C/99株は,種々のアルボウイルス中和抗体を用いた中和試験およびドットブロット法による血清学的解析により ,ブニヤウイルス科シンブ血清群に属するPeaton virusであると同定された。
  • オーストラリア株(CSIRO110株)およびNS-3/P/99株,MZ-4/C/99株のS RNAセグメントの塩基配列を決定した。NS-3/P/99およびMZ-4/C/99株のヌクレオカプシド遺伝子の塩基配列は ,CSIRO110株の配列に対して,それぞれ8.9 %と8.4 %の相違があった。これらの値は,Peaton virusそれぞれの株とアイノウイルスの間の相違の値(8.7~9.2%)とほぼ同等であった。一方 ,NS-3/P/99株とMZ-4/C/99株の間では,99.6%相同であり,1999年に分離された2株はほぼ同一の遺伝学的性状を持つ事が明らかになった(表1)。
  • ヌクレオカプシド遺伝子の塩基配列に基づく系統解析の結果,Peaton virus3株はアイノウイルスと極めて近い関係にあることがわかった(図1)。

成果の活用面・留意点

  • Peaton virusは,羊を用いた感染実験の結果,大脳欠損及び関節彎曲症を引き起こすことが報告されている。今回,Peaton virusの日本への侵入が確認された事により ,今後,ウイルスの流行と異常産発生との関連を注視していく必要がある。
  • Peaton virusの株間で,S RNAセグメントの配列に変異が認められたことから,S RNAセグメントの配列を用いた分子系統樹を作成し,疫学的解析に活用することが可能である。
  • アイノウイルスとPeaton virusのS RNAセグメントの塩基配列は高い相同性を示すため,S RNAセグメントの配列を用いた相互識別は困難であることが示唆された。

具体的データ

表1 Peaton virus3株と他のシンブ血清群ウイルスのヌクレオカプシド遺伝子の比較

 

図1 ヌクレオカプシド遺伝子の塩基配列に基づく、シンブ血清群ウイルスの系統樹

 

その他

  • 研究課題名:アルボウイルス感染症の分子疫学的解析による流行動態の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:梁瀬 徹,大橋誠一,加藤友子,津田知幸,松森洋一,稲井耕次
  • 発表論文等:Matsumori et al. (2002) Arch. Virol. 147: 401-410.