動物体内と環境中における腸管出血性大腸菌O26:H11の遺伝子型変遷

要約

腸管出血性大腸菌O26:H11は牛の体内で遺伝子型変異を起こすことが示唆された。その変異はパルスフィールドゲル電気泳動法を用いた場合,制限酵素1種類当たり最大でバンド5本の違いであった。

  • キーワード:腸管出血性大腸菌,分子疫学,パルスフィールドゲル電気泳動法,遺伝子型別
  • 担当:動衛研・安全性研究部・ズーノーシス研究室
  • 連絡先:0298-38-7816
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

細菌感染症の発生時には原因菌特定のための分子疫学調査が行われ,現在その手法として主にパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE法)による遺 伝子型別が用いられる。しかし疫学調査までに長時間要した場合 ,その間に原因菌の遺伝子型等は変化する可能性があり,腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7では持続感染牛から分離される菌の遺伝子型が変化した との報告がある。そこでこの遺伝子型変異はO157:H7に特有の現象なのかどうかEHEC O26:H11を用いて検討した。

成果の内容・特徴

  • 2ヵ月齢雄ホルスタイン2頭を用いて,薬剤耐性マーカーを付加したO26:H11(stx1保有,eaeA保有)を経口投与し,その排菌状況を調べたところ ,2頭とも投与後1日目に排菌数の最高値に達し,排菌は投与後70日目(No.1牛)および51日目(No.2牛)まで観察された。
  • 排菌期間中に糞便・飼育環境から投与菌479株を経時的に分離し,プラスミド・病原遺伝子(stx1, eaeA)の保有,PFGE法による遺伝子型別を実施した。プラスミド・病原遺伝子は1株を除き ,すべての分離菌で検出されたことから,これらの遺伝子は牛体内や環境中でも非常に良く保存されていた。
  • PFGE法による遺伝子型別では,制限酵素Bln Iを用いた場合,投与後1日目から投与菌とは異なる2種類の遺伝子型が出現し,1日目の分離菌6株は全て変異していた。その後も新たな遺伝子型を示す菌が分離され ,70日間で10タイプが出現した(図1左)。一方,制限酵素Spe I の場合も投与後1日目から投与菌とは異なる遺伝子型が出現し ,70日間で4タイプであった(図1右)。投与菌と分離菌の遺伝子型の違いは制限酵素1種類当たり最大でバンド5本であった。2つの制限酵素での遺伝子型を組み合わせると投与菌・分離菌は15タイプに分類されたが ,投与菌と同一のタイプは分離菌には存在しなかった(表1)。飼育環境からの分離菌も遺伝子型変異を起こしていたが ,そのパターンは糞便からの分離菌と同様であった。
  • 遺伝子型変異の程度を知るために疫学的に由来の異なる株と投与菌および分離菌のPFGE型を比較した結果,由来が異なるにも関わらず投与菌に対して分離菌が示すのと同程度の類似性を持つ株が存在した(図2レーン3,5)。しかしその場合 ,Bln IとSpe Iの両方でのPFGE型を用いれば両者の識別は可能であった。
  • 投与菌を平板で10代継代しても遺伝子型の変化は起こらなかったことから投与菌の遺伝子型変異は主として牛消化管を通過することで起こるものと考えられた。

成果の活用面・留意点

    今回得られた結果に基づき,腸管出血性大腸菌の分子疫学調査では以下の点を念頭において実施する。
  • 牛消化管を通過した分離菌は遺伝子型変異を起こしている可能性が高いと考えられる。
  • PFGEによる遺伝子型別には複数の制限酵素を用いて行うことが望ましい。

具体的データ

図1 投与菌および分離菌のPFGE型

 

表1 実験感染牛から新たに出現したPFGE型と分離数

 

図2 由来の異なる株のPFGE型

 

その他

  • 研究課題名:動物体内および環境中における腸管出血性大腸菌の遺伝子型変遷の解析
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000 ~ 2001年度
  • 研究担当者:吉井紀代,鮫島俊哉,中澤宗生,秋庭正人
  • 発表論文等:吉井ら (2000) 第130回日本獣医学会学術集会講演要旨集 p265.
                     吉井ら (2000) 第83回日本細菌学会関東支部会プログラム p8.