マウス白血病ウイルス受容体の発現分布
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要約
マウス白血病ウイルスについて,受容体の発現分布を培養細胞,動物個体由来の細胞で調べた。受容体の発現はウイルス感受性とほぼ一致し,宿主細胞で発現されるウイルスEnvによって
,感染に必要な受容体がブロックされることが示唆された。
- キーワード:マウス白血病ウイルス,envelope,受容体,感受性
- 担当:動衛研・免疫研究部・免疫制御研究室,感染病研究部・複合感染症研究室
- 連絡先:0298-38-7790
- 区分:動物衛生
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
ウイルス感染の第一段階はウイルスの受容体への結合であり,宿主におけるウイルス受容体の発現と宿主のウイルス感受性との関係を調べることは,ウイルス感染の制御にむけて大きな意味を持つ。レトロウイルスの一種であるマウス白血病ウイルス (MuLV) は
,陽イオンアミノ酸トランスポーター(mCAT-1)であることが明らかになっている。そこで,培養細胞およびマウス個体の持つEco-MuLV感受性とEco-MuLV受容体の発現との関係を調べた。
成果の内容・特徴
- 内在性Eco-MuLV,Fv4のenvelopeタンパク質 (Env) を用いて,受容体mCAT-1の発現を調べた。Fv4 Envは,mCAT-1を発現しているマウスNIH3T3細胞には結合したが
,発現していないウサギSIRC細胞には結合しなかった。またFv4 Envは,SIRC細胞にmCAT-1を導入したSIRC-NIH EcoR細胞には結合し,受容体を発現している細胞に特異的に結合することが確かめられた(図1)。
- Fv4 Envを用いて,種々の培養細胞でのmCAT-1の発現を調べた。図1に
示す通り
,Fv4 EnvはM. musclus(マウスの一種)以外の動物種由来の細胞株には結合しなかった。また,M.
musclus由来の細胞でも,内在性Eco-MuLVを持つ細胞株
,Eco-MuLVを持続感染させた細胞株,Eco-MuLVのEnvを発現させた細胞にはFv4
Envの結合は見られず,ウイルス感染に必要な受容体が細胞内で発現されるEnvによってブロックされていることが示唆された。これらの細胞のウイルス感
受性とFv4 Env結合性はほぼ一致していた。
- マウス個体の持つ感受性・抵抗性と受容体の発現との関係は,Eco-MuLV Envと蛍光タンパク質 GFPとの融合タンパク質 (F-SU/GFP)を用いて解析した。Eco-MuLVに感受性のBALB/cマウスでは
,すべての造血系細胞にF-SU/GFPが結合し,TER119陽性の赤芽球では,mCAT-1の強い発現が確認された(図2)。
- 内在性Eco-MuLV Envを発現し,Eco-MuLV感染に抵抗性を示すC4Wマウス,内在性Eco-MuLV Envを発現しているがEco-MuLV感染に感受性を示すAKRマウスの造血系細胞についても
,同様の解析を行った。C4Wマウス,AKRマウスの細胞はBALB/cマウスの細胞と異なり,共にF-SU/GFPの結合が見られなかった。Eco-MuLV感受性の違いにもかかわらず
,C4WマウスとAKRマウスの細胞では,違いが見られなかった(図3)。
成果の活用面・留意点
- 宿主細胞で発現されるウイルスEnvによって,外来性ウイルスの感染に必要な受容体がブロックされることが明らかとなり,抗病性家畜等の作出への応用も考えられる。
- ウイルスに感受性であるにもかかわらずEnvの結合が観察されない例があることから,細胞・動物によっては第二の受容体が存在する可能性や,受容体への結合にrecombinant Envでは再現できない立体構造が重要である可能性もある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:白血病抵抗性宿主遺伝子の機能と構造解析
- 予算区分:委託プロ(動物ゲノム)
- 研究期間:1994~2000年度
- 研究担当者:鈴木孝子,相沢志郎,加藤花名子,木谷 裕,松原 豊,高瀬-余田明,渡辺里人,
- 北川昌伸,池田秀利
- 発表論文等:1) Ikeda et al. (2000) J. Virol. 74: 1815-1826.
2) Suzuki et al. (2001) Arch. Virol. 146: 507-519.
3) Kitagawa et al. (2001) Leukemia 15:1779-1784.