乾乳開始時における組換えウシインターロイキン-8の乳槽内投与が乳タンパク質組成および体細胞数に及ぼす影響

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要約

搾乳を停止すると同時にホルスタイン牛の一分房乳槽内に組換えウシインターロイキン-8を投与すると、投与量に応じて速やかな体細胞数の増加、免疫グロブリンや血清アルブミンなどの血清タンパク質の滲出およびカゼイン濃度の低下が観られた。これらの影響は次回の泌乳期に波及しなかった。

  • キーワード:乳牛、インターロイキン-8、乳房炎、乳・血液バリア、オプソニン抗体
  • 担当:動衛研・北海道支所・臨床生科学研究室
  • 連絡先:電話011-851-5226
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

搾乳停止などによって乳腺が退縮し始める時期(乾乳初期)は、乳房炎の発生しやすい時期でもある。乳房炎時に乳腺局所でその濃度が増加するインターロイキン-8(IL-8)は、好中球に対するケモカインとして乳房炎の早期治療・予防に期待されているサイトカインの一つである。本研究は、乾乳開始期の乳腺機能に及ぼすIL-8の影響を調べることにより、乳腺におけるIL-8の役割について知見を得、乳房炎予防法の開発に資することを目的とした。

成果の内容・特徴

  • 正常な乳房を持つ乾乳開始期のホルスタイン牛3頭を用いた。搾乳を停止すると同時に右前分房の乳槽内に5あるいは25μgの組換えウシIL-8(rBoIL-8; ヒゲタ醤油製、交付金プロ(サイトカイン))を、左前分房には対照溶媒(PBS)を投与し、 体細胞数(SCC)および乳槽内溶液タンパク質の変動を調べた。rBoIL-8の投与量に応じて乳槽内に体細胞数が増加した(図1)。またPBSに比べて、rBoIL-8投与分房ではより速やかな血清アルブミン(Alb)やIgG2(オプソニン抗体を含むIgGサブクラス)などの血清タンパク質の滲出とカゼインやラクトグロブリン濃度の低下が見られた(図2、3)。
    IL-8は乳質低下の一因となるサイトカインであることが示唆された。一方、IL-8は好中球貪食機能の阻害物質であるカゼインの濃度を低下させ、またオプソニン抗体を増加させることによって好中球などの貪食細胞が働きやすい環境をもたらすものと推察された。
  • 1.で観察された乳・血液バリアの弛緩やカゼイン分泌の低下が次の搾乳に影響するか否かを調べるため、ホルモン投与によって泌乳を誘起し、搾乳開始後30日目までについてSCCや乳タンパク質の組成および濃度を調べた。日乳量は搾乳開始後30日目において前回泌乳期の1日最大乳量の70-94%に達した。全ての個体について搾乳開始から2日目までを除き、乳中のSCC、Alb、IgG1およびIgG2濃度は、それぞれ順に1 X 105/ml、 0.29-0.37、0.33-0.42および0.031-0.051mg/mlという範囲(前回泌乳期の値に近似、常乳の範囲)で推移した。
    rBoIL-8投与によって弛緩した乳・血液バリアは正常に回復し、乳腺上皮の分泌機能もほぼ元通りであった。組織学的検査からも、慢性的な組織障害は見られなかった。
  • 25μgのrBoIL-8を投与した場合、2頭の牛に投与後1. 3日目に著しい体温上昇(40°C前後)が見られた。

成果の活用面・留意点

  • IL-8は炎症性サイトカインでもあるので、使用時にはその点を十分に注意する必要がある。
  • IL-8の乳腺組織あるいは全身への作用の機序解明のためには、今後基礎的な研究を積み重ねていく必要がある。

具体的データ

図1 乾乳開始時に左前分房乳槽内にrBoIL-8 を,右前分房乳槽内にコン トロールのPBS を投与した後の乳槽内貯留液中のSCCの変化

 

図2 乾乳開始時に左前分房乳槽内にrBoIL-8 を,右前分房乳槽内にコントロールのPBS を投与した後の乳槽内貯留液タンパク質組成の変化

 

図3 乾乳開始時に左前分房乳槽内にrBoIL-8 を,右前分房乳槽内にコン トロールのPBS を投与した後の乳槽内貯留液中IgG2濃度の変化.

その他

  • 研究課題名:サイトカインの乳腺細胞機能への影響
  • 予算区分:交付金プロ(サイトカイン)
  • 研究期間:1997~2002年度
  • 研究担当者:渡部淳、塩野浩紀、八木行雄
  • 研究論文等:Watanabe et al. (2000) J. Vet. Med. B 47: 653-662.