牛胎子の腸管リンパ組織における抗原提示細胞の形態的および機能的特性

要約

牛胎子空回腸パイエル板リンパ濾胞の樹状細胞は、そのマーカーであるS-100蛋白を発現し、細胞表面に検出される膜抗原の種類および局在から二種類(胚中心樹状細胞および濾胞樹状細胞)に大別された。また、腸間膜リンパ節では胎子期からすでに抗原提示関連(MHC classII)遺伝子が発現しており、胎子期における腸管関連リンパ系組織の発生に関与していると考えられる。

  • キーワード:牛、腸管関連リンパ系組織、樹状細胞、MHC classII遺伝子
  • 担当:動衛研・九州支所・臨床病理研究室
  • 連絡先:電話099-268-2078
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

樹状細胞およびマクロファージ等の抗原提示細胞は、生体の免疫機能発動に重要な役割を果たしている。ヒトの医療分野では、樹状細胞の特性を用いた癌の治療法が既に開発されているが、獣医学領域では、その局在および機能の特性に関する基礎的知見がない。そこで本研究では、牛胎子の回腸および腸間膜リンパ節における抗原提示細胞の種類、分布ならびに抗原提示能について解析した。

成果の内容・特徴

  • 牛胎子の空回腸パイエル板は、胎齢中期(約150日:n = 3)から粘膜固有層の単核球集簇巣として発生し、胎齢満期(約285日:n = 3)までには、リンパ濾胞の細胞数は少ないものの成牛と同様な構造に発達していた。
  • 胎子期のパイエル板では、凍結切片を用いた免疫組織化学的検索によりリンパ濾胞胚中心に分布する紡錘形の核を持った細長い細胞質突起をのばす細胞(A型)と濾胞辺縁に分布する円形の核を持った細胞質突起が少ない細胞(B型)の2種類が樹状細胞のマーカーである抗S-100蛋白抗体で陽性を示した。抗膜抗原抗体を用いた免疫染色の結果とヒトで報告されている樹状細胞の性状との比較から、CD14を発現しないA型は胚中心樹状細胞、CD14を発現するB型は濾胞樹状細胞であることが示唆された(表1および図1)。
  • 腸間膜リンパ節では、胎齢中期から皮質表層に小型で胚中心を持たない一次リンパ濾胞の形成がみられ、胎齢満期の牛ではヒトやマウスとは異なって、胚中心を有する多数の二次リンパ濾胞が認められた。
  • 胎齢中期、胎齢満期および20~28日齢(n = 3)の若齢牛の腸間膜リンパ節における抗原提示関連MHCclassII (DQB)遺伝子の発現をRT-PCR法で検出し、β-actin遺伝子の発現量をもとに半定量法で比較した結果、それぞれ0.88±0.2、0.81±0.15および0.28±0.16であり、牛胎子の腸管関連リンパ系組織では、組織発生初期からすでに抗原提示関連遺伝子が強く発現していることが明らかにされた(図2および表2)。

成果の活用面・留意点

本研究は、これまで不明な点が多かった牛の消化管免疫の機構解明に寄与しており、明らかにされた牛胎子の腸管関連リンパ系組織における抗原提示細胞の分 布、種類および発生初期からの抗原提示能の発現は、今後、新しいワクチンや下痢症などの治療法開発に向けた基礎的知見となる。

具体的データ

表1 本研究で得られた結果とヒトで報告されている樹状細胞の膜抗原性状との比較

 

図1 牛胎子(胎齢満期)の回腸パイエル板リンパ濾胞にみられるS-100 蛋白陽性の二種類 の樹状細胞。

 

図2 腸間膜リンパ節における MHC class II (DQB)遺伝子発現の 検出。陽性対照にはLPS 刺激牛培 養マクロファージを用いた。 表2 PCR で用いたプライマーと反応条件

その他

  • 研究課題:牛消化管関連リンパ系組織における抗原提示細胞の機能解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:田中省吾、佐藤真澄、伊藤博哉、秋庭正人