豚皮膚炎腎症症候群(PDNS)の病理組織学的診断指標

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要約

我が国で初めて豚皮膚炎腎症症候群を診断した。特徴病変は線維素性糸球体腎炎、壊死性出血性皮膚炎、多発性壊死性血管炎であり、これらは病理組織学的診断の指標となり得る病変である。

背景・ねらい

豚皮膚炎腎症症候群(Porcine dermatitis and nephropathy syndrome : PDNS)は、1993年に初めて報告された豚の新興疾病である。臨床的には、豚はしばしば急死し、皮膚では紫赤色斑が観察される。病理解剖学的には、腎 臓の点状出血と脾臓の出血性梗塞等がみられる。このため豚コレラがPDNSと誤認される危険性があり、それ故に本疾病は世界中で重要視されている。 PDNSは英国で最初に報告され、その後、米国、スペイン、チリ、フランス、オランダ、イタリアおよびアルゼンチンでもその発生が認められている。一方、 我々は、我が国におけるこの疾病の発生を2001年に初めて確認した。そこで、病理学的診断指標を明らかにするため、この症例について病理組織学的診断の 要点を検討する。

成果の内容・特徴

  • 急死した4カ月齢の肥育豚を病理解剖学的に検査したところ、皮膚における出血、壊死(図1)、点状出血を伴う腎臓の腫大(図2)、舌と胃における潰瘍形成および消化管における充出血が観察された。
  • 病理組織学的検査の結果、出血性壊死性皮膚炎と線維素性糸球体腎炎(図3)が観察され、中小動脈の血管炎(図4)が、皮膚、脾臓、食道、胃および結腸で確認された。
  • これらの肉眼および組織病変はPDNSのそれに一致し、我が国初発例のPDNSと診断された。
  • 血管炎が存在することから、PDNSの病理発生には3型アレルギーが関与していると考えられている。本症例では、豚サーコウイルス(PCV)抗原がリンパ組織等で検出されたが、病変部血管では検出されず、PCVが血管炎の原因か否かは不明である。

成果の活用面・留意点

  • PDNSの病理組織学的診断指標となり得る病変は、皮膚炎、糸球体腎炎および多発性の血管炎である。
  • 上述のように、PDNSの臨床および病理解剖学的所見は豚コレラのそれに類似するので、PDNSを疑う症例については豚コレラに関するウイルス学的検査を優先することが必要不可欠である。
  • 皮膚病変がないPDNS様疾病が国内で発生している。このような例の位置づけを確立する必要がある。

具体的データ

図1 皮膚における出血。病変は臀部で
特に高度である。

 

図2 腎臓は腫大し,表面に点状出血が
みられる

 

図3 皮下組織で観察された血管炎

 

図4 線維素性糸球体腎炎

 

その他

  • 研究課題名:病理解剖学的、組織学的および分子病理学的手法を用いた口蹄疫の診断技術の開発
  • 課題ID:13-03-02-*-05-02
  • 予算区分:交付金プロ/口蹄疫 (4020)
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:播谷 亮、谷村信彦、木村久美子、川嶌健司、阿部敏晃 (徳島県)、山田みちる(徳島県)
  • 発表論文等:
    1) 播谷ら (2002) 日本豚病研究会報 38:18-20.
    2) Abe et al. (2002) Vet. Rec. 150:87-88.