馬腸管スピロヘータは盲腸上皮の過形成および大腸炎に関与する

要約

馬の大腸粘膜に侵入するBrachyspira抗原陽性腸管スピロヘータは、盲腸上皮の過形成および大腸炎に関与することが明らかとなった。これらは馬腸管スピロヘータ症の病理組織学的診断指標となる病変である。

  • キーワード:ウマ、腸管スピロヘータ、Brachyspira、盲腸上皮の過形成、大腸炎 
  • 担当:動物衛生研・北海道支所・臨床病理研究室
  • 連絡先:電話011-851-5226、電子メールでの問い合わせはこちらから。
  • 区分:動物衛生
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

腸管スピロヘータ症は、ヒト、ヒヒ、猿、牛、鹿、豚、犬、ピューマ、ラットおよび鳥類で報告されている。馬では、1964年に、盲腸内容物に存在するスピロヘータに関して報告されたが、それらの生物学的意味は不明のままであった。2001年、病性鑑定に供された馬が、腸管スピロヘータ症に罹患していると考えられた。そこで、馬腸管スピロヘータ症の診断指標の確立を目的とし、本疾病の病理学的特徴を明らかにすることを目指した。

成果の内容・特徴

  • 2001年、21ヵ月齢サラブレッド馬が持続性の下痢および発育遅延を示し、小形腸円虫(小円虫)の寄生などとともにBrachyspira抗原陽性(抗Brachyspira hyodysenteriae ウサギ血清に陽性反応を示す)スピロヘータの粘膜への侵入が観察され、大腸炎との関連が認められた。この症例は、馬の腸管に感染したスピロヘータが病原性を発揮したと考えられ、腸管スピロヘータ症が馬でも起こりうることを示していた。
  • 大腸炎の病理発生におけるスピロヘータ感染の役割を解明するため、2001年に病性鑑定に供された35日齢~17歳の12頭のサラブレッドにおけるBrachyspira抗原陽性腸管スピロヘータの有無を組織学的、免疫組織化学的、超微形態学的手法を用いて調べた。その結果、7頭(58.3%)が腸管スピロヘータに感染しており、盲腸に多く認められた。臨床的にその感染と下痢・赤痢との関連は不明であった。スピロヘータの感染に年齢の偏りはみられなかった。
  • 組織学的に、スピロヘータ感染と盲腸上皮の過形成は明らかな関連が認められた(表1)。陰窩上皮は、主として杯細胞から成り、その至る所で頻繁な有糸分裂が認められた。それらの病変には、うっ血とリンパ球、マクロファージの浸潤が認められた(図1)。陰窩には多数のスピロヘータが認められ、そのいくらかは、盲腸、結腸の粘膜上皮と固有層に侵入していた(図2)。
  • 透過型電子顕微鏡による超微形態学的観察の結果、それらのスピロヘータは、4つのタイプにわけられた。そのうち3つタイプが変性した上皮細胞の細胞質内ならびに細胞間に認められた。
  • 検索結果より、粘膜に侵入するBrachyspira抗原陽性腸管スピロヘータは、馬において病理組織学的に盲腸上皮過形成および大腸炎を誘発すること明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • 馬の消化管疾病における原因のひとつとして、腸管スピロヘータを考慮する必要がある。本研究は、本疾病の存在を認識し、その診断および治療の開発に有用な資料となる。
  • 馬腸管スピロヘータ症の国内の発生状況をさらに調査する必要がある。

具体的データ

図1 a) 腸管スピロヘータ非感染馬(症例No. 9)の盲腸。M は粘膜筋板を示す。

 

表1 12 頭のサラブレッド馬における大腸粘膜の 厚さ図2 腸管スピロヘータの透過型電 子顕微鏡像。

その他

  • 研究課題名:螺旋菌・桿菌による消化器病変形成機構の解明
  • 課題ID:13-02-01-*-40-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2002~2004年度
  • 研究担当者:芝原友幸、桑野睦敏(JRA)、上野孝範(JRA)、片山芳也(JRA)、安斉 了(JRA)、桑本 康(JRA)、
                      佐藤宏昭(JRA)、大宅辰夫、樋口 徹(日高農済)、田原口貞生(日高農済)、
                      前田泰治(北海道根室家保)、山本慎二(北海道釧路家保)、梅村孝司(北大)、石川義春、門田耕一
  • 発表論文等:1) Shibahara et al. (2002) J. Vet. Med. Sci. 64:633-636.
                      2) Shibahara et al. (2005) J. Vet. Diagn. Invest. 17:145-150.