豚丹毒・豚マイコプラズマ肺炎多価ワクチンの針なし注射による接種

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要約

針なし注射を用いてマイコプラズマ抗原を発現する遺伝子組換え豚丹毒菌YS-19株を豚の皮内に1回接種することによって豚マイコプラズマ肺炎に対する防御反応の指標となる細胞性免疫が誘導される。また、免疫豚群は非免疫豚群に比較して肺炎病変が少なくなる。

  • キーワード:豚マイコプラズマ肺炎、ワクチン、豚丹毒菌YS-19株、針なし注射
  • 担当:動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

現在、家畜のワクチン接種は注射による方法が一般的であるが、接種時の労働力確保や接種後の枝肉への注射針残留など問題が多い。また、家畜飼養の大規模化に伴いワクチン接種に省力化が強く求められており、これらの問題を解決するワクチンの開発は急務である。これまで、針なし注射(Needle-free injector)を使った免疫法が開発されているが、この方法は圧縮ガスを利用して動物に出血を起こすことなく皮内、あるいは、その深部の組織にまで抗原を注入することができ、動物を保定する必要がなく多頭に連続注入が可能になる。我々は、豚丹毒と豚マイコプラズマ肺炎に効果のある粘膜投与型の遺伝子組換え多価ワクチン候補株として経鼻噴霧接種により細胞性免疫を誘導できる豚丹毒菌YS-19株を作製している。そこで、針なし注射を用いたYS-19株の皮内接種による免疫法を検討する。

成果の内容・特徴

  • 針なし注射(Med-e-jet Co., USA)を用いて豚の耳根部皮内にYS-19を1回免疫し(図1)、末梢血単核球のマイコプラズマ抗原(P97蛋白)刺激による増殖反応を解析すると、YS-19株免疫豚の末梢血単核球はマイコプラズマ(M. hyopneumoniae)強毒株の攻撃直後に非免疫コントロール豚群のものと比較して有意に増殖する(図2)。このことから、針なし注射を用いてYS-19株を免疫することによって、豚マイコプラズマ肺炎に対する防御反応の指標となる細胞性免疫が誘導されることがわかる。
  • 針なし注射を用いて豚の耳根部皮内に1回免疫し、免疫後 28, 29, 30 日後に M. hyopneumoniaeを含む病変乳剤を経鼻的に噴霧接種攻撃し、攻撃28日後に解剖して肺の病変形成を確認すると、非免疫コントロール群豚では病変面積比率にして平均9.2%の病変が観察されるのに対して、YS-19株接種群豚のそれは平均0.2%(p<0.01)と有意に低下する(表1)。このことから、針なし注射を用いてYS-19株を1回免疫することにより肺炎病変が抑えられることがわかる。

成果の活用面・留意点

  • 針なし注射によるYS-19株接種は豚丹毒・豚マイコプラズマ肺炎ワクチンとして将来、有効である。またこの接種法は、様々な接種抗原に対して血中抗体を誘導することがわかっており、現在使用されている様々なワクチン接種法の代替法としても有効であると考えられる。
  • 針なし注射を用いた免疫法は、豚に苦痛を伴わずに多頭に連続免疫が可能になることから、動物福祉の面でも将来、有望な方法となる。

具体的データ

図1 .針なし注射による免疫

図2 . マイコプラズマ抗原刺激による豚末梢血単核球の増殖

表1

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 課題ID:322-i
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:下地善弘、大石英司(株式会社 微生物化学研究所)、宗田吉広、芝原友幸、森 康行
  • 発表論文等:下地ら(2006)動物衛生研究所研究報告第113号 P1-11