新たに牛から分離されたFacklamia sourekiiの性状

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要約

F. sourekiiは近年、新菌種として分類されたグラム陽性菌で、由来の明らかな本菌の分離例は全てヒトの臨床材料からである。今回、我々は泌乳牛の血尿材料からF. sourekiiを分離した。これはヒト以外の動物からの初めての分離例である。

  • キーワード:泌乳牛、血尿、Facklamia sourekii、グラム陽性菌
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

Facklamia属は1997年に新属として提唱され、現在までに6菌種(F. hominis, F. ignava, F. languida, F. sourekii, F. tabacinasalis, F. miroungae)が本属に分類されている。本属の菌種は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、オキシダーゼ陰性、通性嫌気性で、レンサ球菌様であるが、新しい属であるため市販の簡易同定キットでは同定が出来ない。また、タバコ由来のF. tabacinasalisおよびゾウアザラシの鼻腔スワブ由来のF. miroungae以外では、ヒトの臨床材料からの分離例しか報告されておらず、本属に所属する菌の生態や病原性には不明な点が多い。
そこで本研究では、病畜由来の分離菌株のうち、市販の簡易同定キットでは同定が出来なかったグラム陽性菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、菌種同定を試みた。その結果、2005年に牛血尿材料から分離された被検菌がF. sourekiiと同定された。

成果の内容・特徴

  • 2005年の春に排尿痛を呈した泌乳中のホルスタイン(5歳5ヶ月)の血尿から、市販の同定キット(bioMerieux, API ID32 STREP system)では同定不能な、グラム陽性、カタラーゼ陰性、オキシダーゼ陰性、通性嫌気性のレンサ球菌様の菌(NIAH 13370株)が分離された(図1)。
  • 本菌の16S rRNA遺伝子の一部をPCRで増幅し、その塩基配列(1,502 bp)を決定したところ、その配列(アクセッション番号:AB248259)はF. sourekiiの基準株(CCUG 28783AT株)の16S rRNA遺伝子の配列(アクセッション番号:Y17312)と99.87%の相同性を示した。この結果から、本菌をF. sourekiiと同定した。
  • 本菌の生化学性状はF. sourekiiの基準株のものとよく一致するが、SorbitolとLactoseの分解能は異なっている(表1)。

成果の活用面・留意点

  • F. sourekiiは、ヒトの菌血症患者の血液などから分離されると報告されてきたが、今回はじめて病畜からも分離されることが明らかとなった。このことは、本菌が新たな人獣共通感染症の原因菌となる可能性を示唆している。
  • F. sourekiiは市販の同定キットでは同定が不可能であり、正確な同定のためには、特異生化学性状と16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定することが重要である。

具体的データ

図1 F.sourekii NIAH 13370株のグラム染色像表1 F.sourekii NIAH 13370株およびCCUG 28783AT株の生化学性状

その他

  • 研究課題名:細菌?寄生虫感染症の診断?防除技術の高度化
  • 課題ID:322-e
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:高松大輔、井出久浩(石川県南部家保)、大崎慎人、関崎 勉
  • 発表論文等:Takamatsu et al. (2006) J. Vet. Med. Sci. 68: 1225-1227.