子牛のScopulariopsis brevicaulisによる全身性過角化症

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要約

子牛のScopulariopsis brevicaulis感染症の病理組織学的特徴は、多数のレモン状の形態を呈する胞子を伴う全身皮膚の過角化である。

  • キーワード:子牛、Scopulariopsis brevicaulis、真菌、全身性過角化症
  • 担当:動物衛生研・疫学研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

Scopulariopsis brevicaulisは、子嚢菌門(phylum Ascomycota)に属する真菌である。本真菌は、不完全菌類であり、表面に粗いトゲをもつ胞子からなるアネロ型分生子を形成する。S. brevicaulisはヒトの爪真菌症(爪過角化症)、角膜炎および限局性皮膚炎の原因となる。一方、動物では蹄、毛および爪からの分離報告はあるものの、S. brevicaulisに起因する疾病の報告はない。本研究では、黒毛和種子牛にみられたS. brevicaulisによる全身性過角化症について、その臨床的、病理学的特徴を明らかにし、その診断法と診断手順の確立の一助とすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 秋田県内の農場で飼育されていた4カ月齢雌黒毛和種子牛が下痢、元気消失、食欲不振、発熱を伴い、頭部(図1)、臀部、腋窩皮膚に痂皮の形成を認めた。抗生物質等を用いて治療したが、症状の改善がみられなかったため、安楽殺後に病理組織学的、微生物学的、血液生化学検査を実施した。
  • 剖検時に、全身の皮膚に痂皮がみられ、化膿性肺炎も認められた。
  • 病理組織学的に、皮膚に顕著な過角化(図2)と錯角化がみられた。角質層と毛包に多数の真菌と中等度のグラム陽性球菌を認めた。この真菌は、レモン状の形態を呈する胞子(図3)が大部分であり、菌糸はごく少数しか観察できなかった。胞子は、表面に粗いトゲのある厚い壁で包まれ、内部はPAS陽性を示した。
  • 皮膚から分離された真菌は、ラクトフェノール・コットンブルー染色像(図4a)、走査型電子顕微鏡像(図4b)および遺伝子配列解析によりS. brevicaulis (accession number AB297478)と同定された。細菌学的検査では皮膚からStaphylococcus spp.、肺からArcanobacterium pyogenesが分離された。ウイルス学的検査では病原ウイルスは分離されなかった。
  • 血液生化学的検査では、好中球画分の増加(66%)、赤血球数(14.5 x 106/μl)が高値を示し、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(1,234 U/L)、クレアチンフォスフォナーゼ(6,780IU/L)、遊離脂肪酸(1,625μEq/l)の上昇がみられた。
  • 本症例は免疫低下状態であったと考えられ、真菌性皮膚炎以外に、日和見的に化膿性気管支肺炎を併発していたと推察された。S. brevicaulisの感染源は、汚染された敷料、飼料が疑われ、感染経路は擦過傷と考えられた。本疾患は動物においてS. brevicaulisによるはじめての疾病である。

成果の活用面・留意点

  • 黒毛和種子牛のS. brevicaulisによる全身性過角化症に関する情報は、類症鑑別に活用できる。
  • その他の真菌性皮膚炎も考慮し、分子生物学的手法を用いた迅速鑑別診断法を開発する必要がある。

具体的データ

図1 頭部皮膚の痂皮。

図2 皮膚の顕著な過角化。HE染色。Bar=250μm。

図3 角質層のレモン状の形態を呈する胞子。グロコット染色。Bar=10μm。

その他

  • 研究課題名:疾病および病原体の疫学的特性解明による防除対策の高度化
  • 課題ID:322-h
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:芝原友幸、小川秀治(秋田県中央家保)、佐野文子(千葉大)、門田耕一、久保正法
  • 発表論文等:1) Ogawa S. et al. (2008) J Comp Pathol. 138(2-3):145-150