インフルエンザウイルスに対する細胞性免疫の指標となる細胞表面抗原の同定

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要約

ワクチン接種によって体内に形成・維持される細胞障害性T細胞は、細胞性免疫の主要な担い手である。インフルエンザウイルス感染においては、細胞障害性T細胞の免疫応答能および寿命は、細胞表面での細胞活性化関連分子(CD27、CD43)の発現と密接に関連している。

  • キーワード:ワクチン、インフルエンザ、細胞性免疫、細胞表面抗原
  • 担当:動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

従来の不活化ワクチンは、インフルエンザウイルスに対して細胞性免疫を効果的に誘導しないことが知られている。近年、ワクチン接種によって体内に形成・維持される細胞障害性T細胞が、細胞性免疫の主要な担い手であることが示された。よって、インフルエンザウイルスに対して細胞性免疫を効果的に誘導するためには、免疫応答能(生体内においてウイルスの感染に反応して増殖し、ウイルス感染細胞を壊す能力)が高く、かつ、寿命の長い細胞障害性T細胞を選択的に形成するようなワクチン手法を開発する必要がある。しかし、ワクチン接種によって体内に形成・維持される細胞障害性T細胞の免疫応答能や寿命を評価することは技術的に困難である場合が多く、これらの性状を簡便に把握するための指標が探索されている。本研究においては、マウスにおける呼吸器ウイルス感染をモデルとし、細胞障害性T細胞の免疫応答能および寿命と密接に関連する細胞表面抗原を同定することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • インフルエンザウイルスなどの呼吸器ウイルスの感染によって形成・維持される細胞障害性T細胞は、細胞表面での細胞活性化関連分子(CD27やCD43など)の発現をもとに、複数の亜集団に分類できる(図1)。
  • 上記の細胞障害性T細胞のうち、CD27を高発現しCD43を低発現する(CD27highCD43low)亜集団の寿命が最も長く、逆に、CD27を低発現しCD43を低発現する(CD27lowCD43low)亜集団の寿命が最も短い(図1)。
  • 上記の細胞障害性T細胞のうち、CD27highCD43lowの亜集団の免疫応答能が最も高く、逆に、CD27lowCD43lowの亜集団の免疫応答能が最も低い(図2A)。
  • 不活化ワクチンは、CD27lowCD43lowの細胞障害性T細胞を選択的に形成する(図2B)。

成果の活用面・留意点

  • ワクチン接種によって体内に形成・維持される細胞障害性T細胞の免疫応答能や寿命は、細胞表面での細胞活性化関連分子(CD27、CD43)の発現を指標として把握することができる。従って、インフルエンザウイルスに対して細胞性免疫を効果的に誘導するためには、CD27を高発現しCD43を低発現する細胞障害性T細胞を選択的に形成するようなワクチンを開発する必要があると考えられる。
  • 従来の不活化ワクチンは、インフルエンザウイルスに対して細胞性免疫を効果的に誘導しない。これは、不活化ワクチンが、免疫応答能が低く寿命が短い細胞障害性T細胞を選択的に形成することに起因すると考えられる。

具体的データ

図1.呼吸器ウイルスの感染によって形成される細胞障害性T細胞の細胞表面抗原。呼吸器ウイルスの感染後1~24ヶ月の脾臓からリンパ球を分取し、そこに含まれる細胞障害性T細胞の細胞表面抗原をフローサイトメトリー解析した。縦軸はCD27、横軸はCD43の発現の高低を示す。等高線は細胞の分布を示す。

図2.A)細胞障害性T細胞の亜集団の免疫応答能の比較。呼吸器ウイルスの感染後1ヶ月の脾臓から、CD27およびCD43の発現をもとに細胞障害性T細胞の亜集団(左図a、b、c)を分取し、その免疫応答能を比較した。右図の縦軸は、各亜集団間の免疫応答能の相対強度を示す。B)不活化ワクチンによって形成される細胞障害性T細胞の細胞表面抗原。不活化ワクチンの感染後1ヶ月の脾臓からリンパ球を分取し、そこに含まれる細胞障害性T細胞の細胞表面抗原をフローサイトメトリー解析した。縦軸はCD27、横軸はCD43の発現の高低を示す。等高線は細胞の分布を示す。

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 課題ID:322-i
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2003~2006年度
  • 研究担当者:彦野弘一
  • 発表論文等:1) Hikono H. et al. (2006) Immunol. Rev. 211:119-132
                       2) Hikono H. et al. (2007) J. Exp. Med. 204(7):1625-1636
                       3) 彦野、高村 (2008) 臨床免疫・アレルギー科、49(4):477-484
                       4) Hikono H. et al. (2008) JARQ 42(4):245-250