豚インフルエンザウイルスのウイルスレセプター特異性の変化

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要約

豚インフルエンザウイルスのウイルス分離にあたり、株化細胞と発育鶏卵という異なった分離方法では、ほ乳類感染の指標となるウイルスのレセプター特異性が変化するので、MDCK細胞の利用が推奨される

  • キーワード:豚インフルエンザ、ウイルスレセプター、シアル酸、発育鶏卵、株化細胞
  • 担当:動物衛生研・人獣感染症研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

豚インフルエンザの監視は、養豚産業における事故率の低減のみならず、新型インフルエンザウイルス出現監視のためにも大変重要な課題である。豚は、鳥型インフルエンザウイルス、ヒト型インフルエンザウイルスの両方に対するレセプターを持っていることから、鳥型、ヒト型両方のインフルエンザウイルスに感染する。このため、豚インフルエンザウイルスのレセプター特異性の解明は、豚由来の新規ウイルスの人への伝搬性を推測するために重要な意義を持つ。鳥型インフルエンザウイルスは発育鶏卵で、ヒト型インフルエンザウイルスは株化細胞(MDCK細胞)で分離することが一般的であるが、豚インフルエンザウイルスの分離にはどちらの系が適切であるかという定説がなかった。
本研究は、同一のウイルス分離材料を二つの系に接種することにより得られたウイルスのレセプター特異性を比較することによって、どちらの系が豚インフルエンザウイルスの分離に適しているかを明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • タイ及び日本国内で豚群の間で継続して維持されている古典的豚インフルエンザウイルスに感染した豚から得られたウイルス分離材料をMDCK細胞と発育鶏卵に接種することによって、それぞれの系で豚インフルエンザウイルスを分離することが可能である。
  • ウイルス分離材料からウイルスのレセプター結合性を規定する赤血球凝集素タンパク質(HA)遺伝子の塩基配列を直接解析し、細胞分離株と鶏卵分離株のHAタンパク質の推定アミノ酸配列を比較すると、タイ由来鶏卵分離株ではHAタンパク質の190番目、国内由来鶏卵分離株では225番目のアミノ酸に置換が認められる(図1)。一方、MDCK細胞分離株のアミノ酸配列は分離材料中のものと同一である。
  • 発育鶏卵分離株は、タイ由来、国内由来を問わず鳥型ウイルスレセプターであるα2,3結合のシアル酸への結合性が増加する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 豚インフルエンザウイルスを発育鶏卵で分離することで、生体内で増えているウイルスと異なったレセプター特異性を示す変異株を分離してしまう可能性がある。
  • 豚に存在するインフルエンザウイルスの特性をよく保持したウイルスを分離するためには、MDCK細胞を利用したウイルス分離が推奨される。

具体的データ

図1 発育鶏卵で分離された豚インフルエンザウイルスに認められたアミノ酸置換のH1亜型HAタンパク質上の位置

図2 豚インフルエンザウイルスのレセプターの特異性の変化

その他

  • 研究課題名:新興・再興人獣共通感染症病原体の検出及び感染防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322a
  • 予算区分:研究拠点
  • 研究期間:2005~2009年度
  • 研究担当者:西藤岳彦、竹前善洋、Ruttapong Ruttanapumma(タイ家衛研), Sujira Parchariyanon(タイ家衛研)、米山州二(栃木県)、林 豪士、平松宏明(中部大)、Nongluk Sriwilaijaroen(中部大)、内田裕子、近藤幸子(名古屋市立大)、矢木宏和(名古屋市立大)、加藤晃一(名古屋市立大学)、鈴木康夫(中部大)
  • 発表論文等:Takemae N. et al. (2010) J. Gen. Virol. 91(4):938-948