Histophilus somni高分子量免疫グロブリン結合蛋白質によるマクロファージ・単球異物取り込み機能の抑制

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要約

牛の病原細菌Histophilus somniの菌体表面蛋白質である高分子量免疫グロブリン結合蛋白質(IbpA)は、免疫細胞であるマクロファージ・単球の異物取り込み機能を細胞骨格形成障害により阻害する。

  • キーワード:ibpA遺伝子、貪食抑制
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

牛の病原細菌Histophilus somniによる髄膜脳脊髄炎や肺炎は日和見感染症や複合感染症としての発症が多いとされるが、その発病機構については未解明であり、病原因子も特定されていない。
我々はこれまでに、本菌が産生する菌体表面タンパク質である高分子量免疫グロブリン結合タンパク質IbpAの遺伝子領域を同定した。IbpAの推定アミノ酸配列上には、細胞接着モチーフや、細胞毒性を示すエルシニア属のエフェクタータンパク質と相同性の高い領域など病原性に関連すると予想される領域が複数存在する。また健康牛生殖器由来株の中にはibpA遺伝子欠失株が認められることから、IbpAは免疫グロブリンへの結合以外にも、何らかの病原学的な役割を果たしている可能性が高い。そこで本研究では、IbpAの病原因子としての機能を解明し、新たな疾病予防策につなげることを目的として、疾病罹患牛由来のibpA遺伝子保有株からibpA遺伝子破壊株を作出し、表現型の変化、特にマクロファージ系細胞との相互作用を解析・比較した。

成果の内容・特徴

  • ibpA遺伝子を保有する牛肺炎由来の2336株より、二重交差の相同組み換えによりibpA遺伝子破壊株2336.A1を作出した。
  • 2336株または2336.A1株をFBM-17細胞(ウシマクロファージ系細胞株)に接種し、細胞に及ぼす毒性を比較すると、2336株を接種した細胞でのみ明瞭な細胞の円形化と細胞骨格(アクチン線維束)形成の障害が認められる(図1)。
  • 2336株または2336.A1株をJ774.1細胞(マウスマクロファージ系細胞株)およびウシ末梢血由来単球に接種した後、異物取り込み作用によるマイクロビーズの取り込み率を比較すると、2336株を接種した細胞でのみ異物取り込み機能の抑制が認められる(図23)。

成果の活用面・留意点

  • これまで知られていなかったIbpAの新たな病原学的役割が明らかとなり、H.somniの新規ワクチン開発等、本疾病の予防対策に応用し得る新たな知見が得られた。
  • 病原体感染の初期段階で働く免疫細胞マクロファージの機能抑制は本菌および他病原体の感染成立を容易にする可能性があり、本成果で明らかとなったIbpAの機能は日和見・複合感染症としてのH.somni感染症の発病機構を解明する上で重要な知見である。

具体的データ

図1 FBM-17細胞への細胞毒性(倒立顕微鏡観察像、ファロイジン染色像)

図2 菌接種後のJ774.1細胞によるマイクロビーズの取り込み像

図3 菌接種後の異物取り込み陽性細胞の割合(%)

その他

  • 研究課題名:細菌・寄生虫感染症の診断・防除技術の高度化
  • 中課題整理番号:322e
  • 予算区分:交付金(重点強化)
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:星野尾歌織、佐々木幸治(岩手県)、田中暁典(メルク)、Lynette B. Corbeil(カリフォルニア大)、田川裕一
  • 発表論文等:Hoshinoo K. et al. (2009) Microb. Pathog. 46(5):273-282