組換え型ブタリゾチームを含有する抗菌絹糸の開発

要約

遺伝子組換えカイコの作出により物理化学的性質が天然型と同一な組換え型ブタリゾチームを大量に生産する系を開発した。絹糸表層のセリシン層に蓄積される組換え型ブタリゾチームは絹糸から容易に溶出し、高い抗菌性を示す。

  • キーワード:ブタリゾチーム、薬剤耐性菌、カイコ、絹糸、繭
  • 担当:動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

近年、抗生物質の乱用による抗生物質が効かない薬剤耐性菌の出現が問題となっている。とりわけ家畜や小動物治療などにおける抗生物質の使用量は非常に多いので、抗生物質に代わる抗菌剤の開発が望まれている。ブタリゾチームは天然の抗菌性蛋白質であり、連鎖球菌など抗生物質耐性菌に対しても効果が高いことから、抗生物質の有力な代替薬として期待されている。さらにヒト免疫不全ウイルスなどレトロウイルスに対する抗ウイルス活性も注目されている。本研究ではブタリゾチーム遺伝子を導入した組換えカイコを作出し、幼虫の絹糸腺で遺伝子を発現させて絹糸の表層に組換え型ブタリゾチームを量産する系を開発する。

成果の内容・特徴

  • ブタリゾチーム遺伝子(488塩基対)を人工合成し、マイクロインジェクションでカイコ卵に注入して組換えカイコを作出した。ブタリゾチーム遺伝子はカイコの絹糸腺で発現され、カイコの吐出する絹糸の表層(セリシン層)に大量に蓄積する(図1)。
  • 組換え絹糸を液体に浸漬するとブタリゾチームは容易に溶出し細菌に対して速やかに溶菌活性を示す。繭1個当たりのブタリゾチーム含有量は0.5 mgに達する(図2)。
  • 分子量およびN末端アミノ酸配列の解析結果から組換え型ブタリゾチームは天然型と同一であることが確認されている。
  • ブタリゾチームはEnterococcus aviumEnterobacter amnigenusPseudomonas alcaligenesなど薬剤耐性や院内感染で問題となっている菌種を含む様々な細菌に対して抗菌性を示す。ニワトリ卵白リゾチームより、いずれの菌に対しても2倍から10倍強い活性を有する(表1)。
  • ブタリゾチームはニワトリ卵白リゾチームやヒトリゾチームに比べて塩基性アミノ酸残基の数が多く、表面の正電荷が大きいことから細菌との親和性が強い。そのため塩濃度やpHの高い環境でニワトリ卵白リゾチームやヒトリゾチームよりも強い抗菌性を示す。

成果の活用面・留意点

  • 絹糸に大量生産することでブタリゾチームの生産コストが大幅に下がり、抗生物質に代わる抗菌剤としての応用が期待できる。
  • ブタリゾチームには細菌を直接溶解して殺滅する作用があり、抗生物質とは作用機序が全く異なるため、抗生物質が効かない薬剤耐性菌に対しても殺菌効果が期待できる。
  • ブタリゾチームは絹糸の表層に蓄積しており、汗などの体液に触れると容易に溶出して抗菌活性を示す。絹糸を繊維材料として医療用品に応用すれば、殺菌力のあるガーゼ、マスク、包帯などとしても活用できる。
  • リゾチーム製剤としてニワトリ卵白リゾチームが既に医薬品として活用されているが、ブタリゾチームは抗菌活性がさらに数倍強く、繭として安価に製造可能である。

具体的データ

組換えカイコの吐出する絹糸の断面図と溶菌活性のイメージ

各種発現宿主における生産量の比較各種細菌の生育に対する最小阻止濃度

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 課題ID:322i
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:土屋佳紀、武田公一(免疫生物研)、森智裕(和光純薬)、冨田正浩(免疫生物研)、黄宝星(日本農産工業)、犬丸茂樹
  • 発表論文等:
    1) Tsuchiya Y. et al. (2009) JARQ, 43: 207-212
    2)土屋ら:「組換え型ブタリゾチームの大量生産法」特開2008-187954