マダニの吸血促進物質、ロンギスタチンを新たに分離

要約

マダニ唾液腺から新規に分離したロンギスタチンはプラスミノーゲン活性化因子と抗血液凝固剤としての機能を保有し、マダニ生存基盤である吸血に重要な役割を果たしている。ロンギスタチンは吸血を遮断する抗マダニ剤の創薬分子として有望である。

  • キーワード:マダニ、吸血、吸血性節足動物
  • 担当:動物衛生研・人獣感染症研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

吸血性節足動物のマダニは4つの発育ステージ(卵-幼ダニ-若ダニ-成ダニ)を保有するが、この特徴ある生活環を維持するためには栄養源を獲得するために宿主からの『吸血』が欠かせない。しかし、生存基盤とも言える『吸血』の分子機構についてはほとんど未解明のままである。一方、マダニ防除対策は家畜の生産性向上を図る上で極めて重要な課題であり、マダニ駆除のために新しい制御技術の開発が常に求められている。本研究では、現行殺ダニ剤に代わる、マダニの生理・生態に立脚した安全で環境に優しい新たな抗マダニ薬の開発を目指し、吸血の分子機構の解明を進めている。

成果の内容・特徴

  • 人獣寄生性マダニのフタトゲチマダニ唾液腺から新たに分離したロンギスタチンは、2つのカルシウム結合ドメインを保有する17.8 kDaの蛋白質である。
  • ロンギスタチンの産生は、吸血開始から飽血直前まで増加するものの、飽血時には完全に停止する。
  • ロンギスタチンはマダニが大量かつ持続吸血を行う際必要な、宿主皮下に形成される血液プールに放出されている。
  • 遺伝子操作によってロンギスタチンを作り出せないマダニを動物に吸血させると、血液プールの形成不全が惹起され、吸血は著しく阻害される。
  • ロンギスタチンはフィブリノーゲンのα、β及びγ鎖を加水分解し、フィブリンクロット形成を遅延させる。ロンギスタチンはフィブリン網目構造と結合し、フィブリンクロット結合プラスミノーゲンを活性型プラスミノーゲンに賦活化し、フィブリンクロットと多血小板血栓を溶解する(図)。
  • ロンギスタチンは世界ではじめて分離されたプラスミノーゲン活性化因子と抗血液凝固剤としての機能2役を保有する蛋白質である。ロンギスタチンはマダニの大量かつ持続的吸血を可能にする役割を果たしていると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 宿主動物にはない、マダニの吸血行動を支えるロンギスタチンは、マダニ吸血生理を逆手に取った抗マダニ薬の標的分子として有望である。
  • 多様性に富んだ多種多様な抗止血物質を保有するマダニは、動物・人医療に応用する分子ハンティングの対象生物としても有用である。
  • ロンギスタチンは心臓・血液疾患などの治療薬開発の創薬候補分子としての可能性がある。

具体的データ

図.ロンギスタチンの作用機序

その他

  • 研究課題名:新興・再興人獣共通感染症病原体の検出及び感染防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322a
  • 予算区分:新技術創出
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:辻 尚利、八田 岳士、アニスザマン
  • 発表論文等: 1) Anisuzzaman et al. (2010) Int. J. Parasitol. 40, :721-729
                        2) Anisuzzaman et al. (2011) PLoS Pathog. 7, : e1001312