非定型BSEプリオンは、定型BSEプリオンと同じく末梢神経に分布する

要約

従来の牛海綿状脳症(BSE)と性状が異なる非定型BSEが、わが国でも摘発されている。非定型BSEプリオン脳内接種実験感染牛の解析により、非定型BSEプリオンも、定型BSEプリオンと同じく末梢神経に分布する。

  • キーワード:プリオン、非定型BSE、末梢神経
  • 担当:動物衛生研・プリオン病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

近年、従来の牛海綿状脳症(定型BSE)と異なる性状を示す非定型牛海綿状脳症(非定型BSE)が、各国で報告されている。非定型BSEは、異常プリオン蛋白質(PrPSc)の分子量により、H型とL型の2種類に分類される。定型BSE牛では、中枢神経系以外にも末梢神経にPrPScが蓄積することが報告されているが、非定型BSE牛におけるプリオンの体内分布は明らかではない。本課題では、非定型BSEプリオンが末梢神経に分布する可能性を明らかにするため、わが国で摘発されたL型BSEプリオンを自然宿主である牛の脳内に実験的に接種し、PrPScの蓄積部位を検証する。

成果の内容・特徴

  • L型BSEプリオンを5頭の牛に脳内接種後、308、364、476、484、497日に解剖し、中枢神経系、末梢神経、リンパ節におけるPrPSc蓄積の有無を、ウエスタンブロット法で調べると、中枢神経系と末梢神経(迷走神経、横隔神経、交感神経幹、星状神経節、前腸間膜神経節、腕神経叢、正中神経、坐骨神経、脛骨神経)、副腎からPrPScが検出される(図)。
  • PrPScが検出された末梢神経の種類は、脳内接種後時間依存的に増加し、末期症状を呈した牛では、PrPScが多くの末梢神経から検出される。
  • ウシ型プリオン蛋白質発現マウスを用いたバイオアッセイにて、腕神経叢、坐骨神経、副腎、迷走神経において感染性が存在する。
  • リンパ節におけるPrPScの蓄積は、ウエスタンブロット法で検出されない。

成果の活用面・留意点

L型BSEを脳内接種した牛では定型BSE牛と同じく、PrPScが末梢神経に蓄積し、リンパ節に蓄積しない。L型BSEプリオンが経口感染した際の末梢組織へのPrPSc蓄積を調べるため、現在牛への経口接種実験を実施している。

具体的データ

L 型BSE 実験感染牛における異常プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積部位

その他

  • 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322d
  • 予算区分:委託プロ(BSE)
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:岩丸祥史、今村守一、松浦裕一、舛甚賢太郎、清水善久、舒 宇静、倉知恵美、河西和雄、村山裕一、福田茂夫(北海道)、尾上貞雄(北海道)、萩原健一(感染研)、山河芳夫(感染研)、佐多徹太郎(感染研)、毛利資郎、岡田洋之、横山 隆
  • 発表論文等:
    1) Iwamaru et al. (2010) Emerg Infect Dis. 16 (7): 1151-4
    2) Iwamaru et al. (2010) Asia-Oceania Symposium on Prion Diseases, 47
    3) Iwamaru et al. (2010) PRION Japan and Canada, 23