多剤耐性を規定する遺伝子領域を染色体上に保有するSalmonella Typhimuriumの出現

要約

広域スペクトラムセファロスポリン耐性を含む11の薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子領域を染色体上に保有するSalmonella Typhimuriumが出現し、北海道の一部地域の牛群に拡散したと考えられる。

  • キーワード:サルモネラ、薬剤耐性、遺伝子領域、広域スペクトラムセファロスポリン
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜、家禽の生産現場における抗菌剤の使用が薬剤耐性菌の選択につながり、それが畜産物を介してヒト食中毒の原因となる可能性が指摘されている。特にヒトの治療に汎用される抗菌剤に対する耐性菌の出現はヒトの健康に重大な影響を及ぼす可能性があるので公衆衛生上、問題視される。本研究の目的は北海道の一部地域の牛から分離される広域スペクトラムセファロスポリン(ESC)耐性Salmonella Typhimuriumの特徴を明らかにし、その拡散防止を目的とした行政施策立案のための基礎資料とすることである。

成果の内容・特徴

  • 2004~2006年に北海道の一部地域の牛から分離され、特定の遺伝子型を有するS. Typhimurium(ST-VII-6)のESC耐性はCMY-2 βラクタマーゼに担われており、これを規定するblaCMY-2遺伝子は染色体上に存在することをサザンブロット解析で確認できる。
  • 複数手法を組み合わせた塩基配列解析でblaCMY-2遺伝子がSTM0869及びSTM0870相同遺伝子の間に挿入された全長125kbの遺伝子領域、GI-VII-6を構成していることを確認できる。GI-VII-6はblaCMY-2の他に10の薬剤耐性遺伝子を含む(図1赤矢印)。
  • GI-VII-6配列の99%は大腸菌由来プラスミドと相同であり、その両端にはIS26が同じ向きで存在したことから、GI-VII-6はプラスミドがIS26を介した転移機構により染色体上に挿入されたものと推察される(図1)。
  • GI-VII-6の全長を19のセグメントに分け、それらをPCRで増幅することでGI-VII-6の構造を確認するPCRマッピング系により、22株のST-VII-6がGI-VII-6を保有することを確認できる(図2)。
  • ST-VII-6はこれまで全ゲノム塩基配列が明らかにされたS. Typhimuriumのいずれとも異なる系統に属することから、GI-VII-6を保有する特殊なクローンが北海道の一部地域の牛群に拡散したと推察される(図3)。

成果の活用面・留意点

S. Typhimuriumの遺伝子型情報や本研究で確立したPCRマッピング系を活用してST-VII-6の拡散状況を今後も継続的に監視する必要がある。

具体的データ

図1.GI-VII-6構造の概略と染色体上における挿入部
図2.野外分離株におけるGI-VII-6保有状況図3.ST-VII-6(L-3553)の系統解析

(秋庭正人)

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
  • 中課題番号:170d1
  • 予算区分:厚労科研費
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:秋庭正人、Francis Shahada、関塚剛史(感染研)、黒田誠(感染研)、楠本正博、大石大樹(山口県)、松本敦子(千葉県)、岡崎ひづる(北海道)、田中 聖、内田郁夫、泉谷秀昌(感染研)、渡邉治雄(感染研)、玉村雪乃、岩田剛敏
  • 発表論文等:Shahada F. et al. (2011) Antimicrob. Agents Chemother. 55: 4114-4121