口蹄疫の近隣伝播は牛農場よりも豚農場が起こしやすい

要約

2010年に発生した口蹄疫の流行データを用いて近距離の農場間伝播(近隣伝播)のリスク要因を分析したところ、豚農場は口蹄疫の近隣伝播を起こすリスクが高く、牛農場は飼養規模が大きいと近隣伝播を受けるリスクが高い。

  • キーワード:口蹄疫、近隣伝播、リスク要因
  • 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2010年4月、宮崎県において日本で10年ぶりとなる口蹄疫が確認された。この発生では、感染が確認された農家数が292戸に及び、終息までの3ヵ月間で約29万頭の家畜が殺処分された。今回の発生がこのような大規模な流行に至った背景としては、発生地域が日本でも有数の畜産地帯であり、牛と豚の飼養密度が非常に高かったことが上げられる。このような地域では、「近隣伝播」といわれるルートの特定できない、あるいは複数のルートによる近距離での伝播が感染拡大に大きな役割を果たしたと考えられる。本研究では、宮崎県で発生した口蹄疫の流行データを分析することによって、近隣伝播のリスク要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ある場所において最も早く感染した農場を起点とした半径500mのクラスターを38ヵ所抽出する。
  • 抽出したクラスター内における近隣伝播のリスク要因を分析したところ、豚農場は近隣伝播を起こすリスクが牛小規模農場よりも高く(オッズ比約17)、2週間で周辺農場の約70%が感染する(表1と図1)。
  • 牛農場は、飼養規模が大きいほど感染するリスクが高く、そのリスクは牛小規模農場と比べて、牛中規模農場(オッズ比約16)、牛大規模農場(オッズ比約26)の順に高くなる(表1)。
  • 起点農場から半径500mの範囲内にある発生農場と非発生農場を比較すると、起点農場における発症から届出までの日数、起点農場における届出から殺処分終了までの日数、起点農場と周辺農場の距離、及び周辺農場が起点農場の風下にあった時間については、両者の間に有意な差は認められない。

成果の活用面・留意点

国と都道府県の家畜衛生担当者を対象に口蹄疫対策のための有用知見として提供できる。

具体的データ

表1.口蹄疫の近隣伝播のリスク要因(ロジスティック混合モデル)
図1.経過日数と周辺農場の感染割合

(早山陽子)

その他

  • 中課題名:重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化等による動物疾病対策の確立
  • 中課題番号:170d3
  • 予算区分:レギュラトリーサイエンス
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:早山陽子、室賀紀彦、西田岳史、小林創太、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama Y. et al. (2012) Res. Vet. Sci. 93:631-635