牛乳房炎に関わる黄色ブドウ球菌優勢系統の遺伝学的背景と感染実態

要約

牛乳房炎に関わる黄色ブドウ球菌の優勢系統は反すう獣でのみ広く分離され、ロイコシジンの一つであるLukM/LukF’-PVはこれらに特有の病原因子である。本系統による牛乳房感染の特徴として不顕性感染ならびに長期間にわたる持続感染が挙げられる。

  • キーワード:黄色ブドウ球菌、multilocus sequence typing法、ロイコシジン、不顕性感染
  • 担当:家畜疾病防除・大規模酪農衛生
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・寒地酪農衛生研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

黄色ブドウ球菌(SA)は難治性牛乳房炎の代表的な原因菌である。牛乳房炎に関わるSAの遺伝学的背景・特徴ならびに酪農場における感染実態を解明することは、SAによる牛乳房炎の低減技術開発につながる。

成果の内容・特徴

  • 21都道府県の牛乳房炎乳を含む牛乳汁由来SA計363株のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE) 法による型別結果から、わが国の牛乳汁由来SAには2つの優勢系統の存在が示唆され、これら優勢系統はmultilocus sequence typing (MLST) 法によりclonal complex (CC) 97ならびにCC705の菌株群として型別される(図1)。CC97、CC705に加えCC133は欧州、南・北米 において反すう獣由来菌株群として広く分離・報告されているが、反すう獣以外の感染事例は極めて稀である。また、わが国の優勢系統であるCC97、CC705(図2)、ならびにCC133の菌株群は特有の病原遺伝子としてブドウ球菌ロイコシジンの一種であるLukM/LukF’-PVを保有する。
  • CC97のSAは同一牛舎の乳牛に伝染性に蔓延し、多くの場合、一旦感染した乳房では長期間に渡り無症状のまま感染が持続する。乳汁以外にも感染牛の牛体、牛房、搾乳器具、搾乳作業者手指からCC97のSAが分離され、これらはSAの重要な感染源あるいは感染経路であると考えられる。また、CC97のSAは健康な子牛の鼻口腔からも分離されており、子牛段階における感染予防が重要であると思われる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 牛乳房感染および牛乳房炎発症とLukM/LukF’-PVの関連性を解明することは、SAによる牛乳房感染の特性、および乳房炎の発症機序解明の端緒となりうる。また、LukM/LukF’-PVが牛乳房感染ならびに乳房炎発症に重要な役割を担っている場合、LukM/LukF’-PVはSA感染予防薬の開発に活用される可能性が高い。
  • 牛乳房炎に関与するSA優勢系統が示す牛乳房感染の特徴、農場内での生息部位および感染経路の一端が明らかとなった。その結果、SAによる牛乳房炎低減化には搾乳牛ならびに子牛にほぼ限定されるSAの感染環を断つ管理手法の実施と子牛段階からのSA非感染牛群の継続管理が有用であることが示唆された。

具体的データ

図1.MLST法による本邦の牛乳汁由来SAの遺伝子型別結果図2.各CCsにおける膜孔形成毒素(ロイコシジンおよびγ-ヘモリシン)遺伝子保有状況
図3.SA(CC97)の酪農場における感染・汚染の実態

(秦 英司)

その他

  • 中課題名:乳房炎等の大規模酪農関連疾病の診断・防除法の開発
  • 中課題番号:170e1
  • 予算区分:交付金(重点強化)
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:秦 英司、渡部 淳、塩野浩紀、勝田 賢、小林秀樹、内田郁夫、玉村雪乃、田中 聖、高松大輔、中島博美(長野県)、清水優花(兵庫県)、江口正志(畜安研)
  • 発表論文等:1)Hata E. et al. (2010) J. Vet. Med. Sci. 72(5):647-652
                      2)Hata E. et al. (2010) J. Clin. Microbiol. 48(6):2130-2139