BSEプリオンの感染性は155°C以上で20分間の蒸製熱処理で消失する

要約

BSEプリオンは湿潤状態では155°C以上で20分間の蒸製熱処理で不活化する。しかし、蒸製熱処理前に材料を乾燥させるとBSEプリオンの不活化効果が減少する。

  • キーワード:プリオン、牛海綿状脳症、不活化、蒸製熱処理
  • 担当:家畜疾病防除・プリオン病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛海綿状脳症(BSE)のまん延の原因となったことから、牛由来副産物の利用は厳しく制限されている。牛由来副産物を肥料等へ安全に再利用するためには、熱に対して強い抵抗性を示すBSEプリオンを不活化することが必要である。本研究では、感染牛のせき髄を実際の牛副産物製造現場を模した蒸製熱条件で処理した後、BSEプリオンに高い感受性を持つ遺伝子改変マウスに投与して、BSEプリオンの不活化を定量的に評価することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • BSE感染価と遺伝子改変マウスの潜伏期間の関係を検出限界希釈法による感染実験で明らかにし、BSE感染価を算出するための基準とする(表1)。
  • 牛副産物(にかわかす)製造現場では、原料骨の内部は最高温度到達までに60分以上の時間を有し、結果的に145~163°Cの蒸製熱で20分間以上処理される。
  • 150°Cの蒸製熱で20分間処理した感染牛せき髄を脳内投与した遺伝子改変マウスは536日で発病し、BSEの感染性が残る。155°C以上では、発症したマウスは認められず、検出できないレベルまでBSEプリオンが不活化される(図1)。
  • 感染牛のすりつぶしたせき髄を乾燥すると、熱に対して強い抵抗性を示し、完全に乾燥させた場合170°CでもBSEの感染性が残る(図1)。
  • 表1を基に遺伝子改変マウスの潜伏期間からBSE感染価(半数致死量:LD50)を算出すると、処理前の感染牛せき髄では106.03LD50/g であるが、150°Cの蒸製熱処理後に102.53LD50/g となり、10-3.50倍に不活化されることを示す。
  • Protein misfolding cyclic amplification (PMCA)法で、蒸製熱処理による異常プリオン蛋白質(PrPSc)の減衰を定量的に算出する。PrPSc量の減衰と感染価の低下は相関しており(図2)、PMCA法はBSE不活化の推定に有効な指標を求めることが可能である。

成果の活用面・留意点

  • 現場で対応可能な蒸製熱温度155°C以上でBSEプリオンの感染性は不活化できる。
  • 蒸製熱処理前に牛由来副産物を乾燥させないように留意する必要がある。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE 等のプリオン病の清浄化技術の開発
  • 中課題整理番号:170b2
  • 予算区分:委託プロ(BSE)
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:松浦裕一,石川有紀子,暁波,村山裕一,横山隆,Robert Somerville (ロスリン研),北本哲之(東北大),毛利資郎
  • 発表論文等:Matsuura Y. et al. (2013) Biochem. Biophys. Res. Commun. 432(1):86-91