口蹄疫伝播シミュレーションモデルによる防疫対策の評価

要約

2010年に発生した口蹄疫流行データを用いて、口蹄疫伝播シミュレーションモデルを構築し、感染拡大を再現して、防疫措置の効果を評価する。感染農場での早期殺処分と初発農場の早期摘発は、感染拡大を効果的かつ効率的に防ぐことができる。

  • キーワード:口蹄疫、伝播モデル、シミュレーション、防疫対策、定量的評価
  • 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

感染症の伝播モデルは、感染拡大をシミュレーションすることで流行動態の分析や様々な防疫対策の効果を比較分析する有用な手法である。2010年、国内では10年ぶりとなる口蹄疫が宮崎県で発生し、感染戸数292戸、家畜の殺処分頭数約30万頭に及ぶ大規模な流行に至った。本研究は、口蹄疫が発生した場合の効果的な防疫対策の立案に資することを目的として、2010年の口蹄疫の流行データを用いて、当時の流行を再現する口蹄疫伝播シミュレーションモデル(伝播モデル)を構築する。また、この伝播モデルを用いて感染拡大のシミュレーションを行い、殺処分やワクチン接種など防疫措置の効果を評価する。

成果の内容・特徴

  • 移動制限開始からワクチン接種前までの流行データを用いて農場間の伝播率を最尤推定法で求め、推定した農場間伝播率を用いて口蹄疫の伝播モデルを構築する。
  • ワクチン接種区域内の農場を対象に移動制限開始後の感染拡大を構築した伝播モデルを用いてシミュレーションしたところ、最終的な感染戸数は中央値で651戸と推定され(表1)、実際の流行規模の2倍以上に増加する。このことは、ワクチン接種を行わなかった場合、今回の流行地域では感染が更に拡大していた可能性を示唆している。
  • 上記2の結果をベースラインとし、感染農場の早期殺処分と初発農場の早期摘発の効果を比較したところ、感染農場の家畜を摘発後24時間以内に殺処分した場合、感染戸数はベースラインの約3割に低下すると推定される。初発農場を早く摘発した場合、多くの流行は小規模のまま終息するが、大規模感染が起こる可能性も残されている(表1)。また、感染拡大の地域的な広がりを確認したところ、感染農場における早期殺処分と初発農場の早期摘発により、感染確率の高い地域がベースラインよりも縮小した(図1)。
  • 追加的な防疫措置として、摘発農場周辺の予防的殺処分を行った場合、感染戸数はベースラインの1割以下に抑えられるが(表1)、予防的殺処分では、1日当たりの殺処分戸数が20~50戸を超え、ベースラインの値(12戸)よりも大幅に増加する。
  • 追加的な防疫措置として、移動制限開始後7日目、28日目に10kmワクチン接種を行った場合、感染戸数はベースラインの約1割と約4割にそれぞれ抑えられるが(表1)ワクチン接種では、700戸以上の農場がワクチン接種の対象になると推定される。

成果の活用面・留意点

  • 国と都道府県による口蹄疫対策の検討に有用な知見として提供できる。
  • 宮崎県で発生した口蹄疫流行データに基づく伝播率を用いており、当該地域における移動制限開始後の感染拡大を推定している。
  • 口蹄疫ウイルスには様々な型があり、変異しやすいため、有効なワクチンがない場合があることに留意する必要がある。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化等による動物疾病対策の確立
  • 中課題整理番号:170d3
  • 予算区分:RS事業
  • 研究期間:2011~2013年
  • 研究担当者:早山陽子、山本健久、小林創太、室賀紀彦、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama Y. et al. (2013) Prev. Vet. Med. 112(3-4):183-193