豚胸膜肺炎菌の血清型K12:O3を世界で初めて分離

要約

世界で初めて分離した豚胸膜肺炎菌の新血清型K12:O3は、これまでにない新しい組合せの莢膜(K)抗原及びLPSのO多糖(O)抗原を持つため、抗体検査による血清学的診断に注意が必要である。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、血清型、莢膜多糖(K)抗原、O多糖(O)抗原
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚の胸膜肺炎の原因菌である豚胸膜肺炎菌(Actinobacillus pleuropneumoniae)の血清型を決める最も主要な抗原は菌体表層の莢膜多糖(K抗原)であり、K抗原の抗原性にもとづき15のK抗原血清型に型別される。またさらにLPSのO多糖(O抗原)も血清型に影響を与える抗原であり、O抗原の抗原性に基づき、11のO抗原血清型に型別される。感染豚ではこれらの抗原に対する抗体が上昇するため、KあるいはO抗原を用いた抗体検査法が開発され、特に海外ではO抗原を使用した抗体測定用キットも市販されている。K及びO抗原の組合せは各血清型に固有であり(表1)、O抗原に対する抗体が検出されれば、感染している豚胸膜肺炎菌株のK抗原も推定可能と考えられてきた。しかし欧米ではK1:O7、K2:O7及びK13:O10といったK及びO抗原の新しい組合せの血清型が分離されており、抗体検査用の抗原としてKまたはO抗原を単独に用いる場合には、判定を誤る可能性がある。日本でもK及びO抗原の組合せが既知のものとは異なる新しい血清型K12:O3の世界で初めてとなる分離例が認められたので報告する。

成果の内容・特徴

  • 死亡豚の肺から豚胸膜肺炎菌QAS106株が分離され、ゲル内沈降反応(ゲル沈)を実施すると、K3:O3、K12:O12及びK15:O3の株との共通抗原を保有しており(図1)、これまでに分離されてきた株とは異なる新しい血清型であることが示唆される。
  • QAS106株は、血清型12に特異的なK抗原合成遺伝子を標的にしたPCRでは陽性を示す。さらにQAS106株のK抗原合成遺伝子の配列は、血清型12のK抗原合成遺伝子(cps12A及びcps12B)の遺伝子配列と同一である。したがって、ゲル沈で観察されたK12:O12との共通抗原は、K抗原であり、QAS106株のK抗原はK12といえる。
  • QAS106株のO抗原合成遺伝子群からは、13個の遺伝子が検出される。それらの遺伝子は、K3:O3及びK15:O3のO抗原合成遺伝子とアミノ酸レベルで、同一かほとんど同一(99.4%以上の相同性)である。一方、K12:O12のO抗原合成遺伝子との相同性は認められない。したがって、ゲル沈で観察されたK3:O3及びK15:O3との共通抗原はO抗原であり、QAS106株のO抗原はO3といえる。
  • 以上の成績からQAS106株は、世界初分離の新血清型K12:O3である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • K12:O3の存在はこれまで知られていなかったため、QAS106株(K12:O3)に感染した豚の場合、O3抗原を使用した抗体検査法を実施すると、K3:O3、K8:O3またはK15:O3(表1)のいずれかに感染していると判定されるが、K12抗原を使用した抗体検査を実施するとK12:O12に感染していると判定される。このため、単独の抗原を使用して血清学的診断を実施する際には判定を誤る恐れがあり、注意が必要である。
  • QAS106株が分離された県とは異なる他の2県でも、K12:O3と思われる株が分離されているので、K12:O3の浸潤状況についてさらに調査する必要がある。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014年度
  • 研究担当者:伊藤博哉、松本敦子(千葉県中央家保)
  • 発表論文等:Ito H. et al. (2015) J. Vet. Diagn. Invest. 27(1):102-106