ヨーロッパ腐蛆病菌のミツバチ幼虫内動態

要約

ヨーロッパ腐蛆病はミツバチ幼虫の腸管感染症である。その発症過程においてヨーロッパ腐蛆病菌は中腸内で増殖し、菌からの何らかの物質が体内に拡散して幼虫に悪影響を与えている可能性がある。

  • キーワード:ミツバチ、ヨーロッパ腐蛆病菌、腸管感染症、病理組織学的解析
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ヨーロッパ腐蛆病菌はミツバチの家畜伝染病であるヨーロッパ腐蛆病の原因菌である。本菌の存在は100年以上前から知られているものの、分離培養した菌による病気の再現が安定しなかったこともあり、本病の発病機構は未だ十分に解明されていない。近年、我々は継代培養を繰り返しても安定的にミツバチ幼虫にヨーロッパ腐蛆病を引き起こすヨーロッパ腐蛆病菌株を発見した。本研究では、ヨーロッパ腐蛆病の発病機構解明の一助とするため、安定した病原性を示す菌株を経口感染させたミツバチ幼虫を病理組織学的に解析し、幼虫内における経時的なヨーロッパ腐蛆病菌の分布と動態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 多くの昆虫では、腸の上皮細胞は囲食膜とよばれるキチンやムチン様蛋白質から構成される分泌物に覆われている(図A)。囲食膜は腸内での食物の消化吸収にかかわるだけでなく、腸の上皮細胞を保護し、病原体の侵入を防ぐ役割も担っている。
  • ヨーロッパ腐蛆病菌に感染した幼虫は、
    1)摂取された菌が中腸上皮細胞を覆う囲食膜に付着し(図B、B')、増殖しはじめる(図C、C')。
    2)増殖過程で、菌から放出された何らかの物質が体内に拡散していく(図B、B'、C、C')。
    3)やがて菌が腸内を埋め尽くし(図D、D')、囲食膜と中腸上皮細胞が変性・崩壊する(図E、E')。
          という経過をたどり、死亡する(図F)。
  • 発症過程において腸管外にも菌は散見されるが(図E)、その数は多くなく、中腸以外で積極的に増殖する様子は観察されない。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で明らかになったように、ヨーロッパ腐蛆病菌はミツバチの幼虫内で爆発的に増殖するが、基本的に囲食膜に囲まれた中腸内腔にとどまっている。しかし、病気の進行とともに菌由来の何らかの物質が体内に拡散し、この物質が幼虫に悪影響を与えている可能性がある。
  • 本研究で初めて感染幼虫を免疫組織化学的に解析したことにより、これまで全く知られていなかった幼虫体内に拡散していく菌由来物質の存在が示唆された。この物質の同定と機能解析によって、長年謎に包まれていた本病の発病機構がより詳細に明らかになると考えられる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:細菌•寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断•防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:髙松大輔、佐藤真澄、芳山三喜雄
  • 発表論文等:Takamatsu D. et al. (2016) J. Vet. Med. Sci. 78(1):29-34