亜臨界水処理による牛海綿状脳症(BSE)プリオンの不活化評価

要約

亜臨界水処理したBSE感染乳剤をマウスに脳内接種したところ、マウスは発症には至らないが、異常プリオン蛋白質の蓄積が認められることから、亜臨界水処理はBSEプリオン不活化法としては不十分である。

  • キーワード:亜臨界水、牛海綿状脳症、プリオン、異常プリオン蛋白質、感染性
  • 担当:家畜疾病防除・プリオン病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

亜臨界水とは、水の臨界点(374°C、22MPa)よりもやや低い近傍の領域の水の状態をいい、通常の水より水酸化イオンの濃度が非常に高く、この水酸化イオンがタンパク質のペプチド結合を加水分解してアミノ酸を生成する。亜臨界水処理は、食品残渣や農産廃棄物等に含まれる有機物の分解に活用されており、牛肉骨粉の不活化に導入できれば、牛肉骨粉を飼肥料等の有機資源として、安全かつ有効に再利用できる可能性がある。亜臨界水処理後に残存するBSEプリオンの感染性および異常プリオン蛋白質(PrPSc)を解析する。

成果の内容・特徴

  • BSE実験感染牛から調製した脊髄乳剤を反応管に充填後、230°C(3.2 MPa)、250°C(4.5 MPa)、280°C(7.1 MPa)で5分ないし7.5分間の亜臨界水処理を行う。処理後、最終濃度10%の乳剤を調製する。
  • 亜臨界水処理サンプルを牛プリオン蛋白質過発現マウス(5~6頭)に脳内接種し、バイオアッセイにより感染性を評価する。
  • 未処理の乳剤を接種した陽性対照マウスは、平均242日で発症するが、亜臨界水処理サンプルを接種したマウスは接種後700日以上を経過しても発症例は認められない。
  • ウェスタンブロット(WB)法により、250°C、7.5分間の亜臨界水処理サンプルを接種したマウスのうち1頭の脳乳剤からPrPScが検出される(図1)。このマウスでは病理検索により抗プリオン蛋白質抗体で染色されるPrPScが観察される(図2)。他のマウスからはPrPScは検出されない。
  • Protein misfolding cyclic amplification(PMCA)法により、接種マウスの脳乳剤を用いてPrPScを増幅すると、すべてのマウスからPrPScが検出される。

成果の活用面・留意点

  • 亜臨界水処理によりPrPScは完全にはアミノ酸に分解されず、処理後も弱い感染性を維持したペプチド断片として残存している可能性が考えられる。
  • WB陽性のマウス脳乳剤をさらに他のマウスに植え継ぐと、プリオン病を発症する。本法ではBSEプリオンの完全不活性化には至らない。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE等のプリオン病の清浄化技術の開発
  • 中課題整理番号:170b2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2008~2015年度
  • 研究担当者:村山裕一、吉岡都、岡田洋之、高田依里(九大農)、舛甚賢太郎、岩丸祥史、下嵜紀子、山村友昭、横山隆、毛利資郎、堤祐司(九大農)
  • 発表論文等:Murayama Y. et al. (2015) PLoS ONE 10(12): e0144761. doi:10.1371/journal.pone.0144761