ウイスカ直接導入法と5MT選抜法によるベクター配列を含まない形質転換体作出技術

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要約

ウイスカ直接導入法を用いて、発現カセット(プロモーター、目的遺伝子およびターミネーター配列)のみを導入したカルスを、5MT選抜法を用いて選抜することにより、抗生物質耐性遺伝子を用いず、ベクター配列を含まない、実用的な形質転換作物を作出できる。

  • キーワード:形質転換作物、ウイスカ直接導入法、選抜マーカー遺伝子、5-メチルトリプトファン(5MT)
  • 担当:作物研・稲研究部・遺伝子技術研究室
  • 連絡先:電話029-838-8949、電子メールakomatsu@affrc.go.jp
  • 区分:作物・生物工学
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

従来広く用いられてきた形質転換技術では、抗生物質耐性遺伝子やベクターの配列の一部が導入されてしまう場合が多く、消費者心理も 含め、様々な問題が指摘されていた。そこで、発現カセット領域のみを導入する等の、目的とする遺伝子以外の配列を含まない形質転換体を作製する技術が必要 である。そこでイネ由来アントラニル酸合成酵素遺伝子(OASA1)を1塩基改変したOASA1Dを選抜マーカーと して、直接導入法の一つで直径0.5μm、長さ10μm前後の針状結晶を使用して形質転換体を得るウイスカ法により、発現カセットのみを導入することで、 導入遺伝子が少数(低コピー)で、ベクター配列を含まない形質転換体を、抗生物質耐性遺伝子を使用しない5MT(5-メチルトリプトファン)選抜法を用い て作出する技術を確立する。

成果の内容・特徴

  • ユビキチンプロモーター(pUbi)にOASA1D遺伝子をつないだ発現カセット(pUbi-OASA1D-Tnos)(図1A)および、それを含む環状プラスミドベクター(図1B)を直接導入法の1つであるウイスカ法を用いて、イネ「クサホナミ」カルスに導入し、5MT選抜を行なうことにより、一定の選抜効率で形質転換体が得られる(表1)。
  • 直接導入法は、アグロバクテリウム法に比べて、導入遺伝子が多コピー化する傾向が強いが、発現カセット領域のみのDNA断片を導入することにより、環状ベクターを導入した場合に比べて、ベクター配列を含まない低コピーの形質転換体を効率よく作出できる(表1)。
  • 発現カセット領域のみを導入し、5MT 選抜法を用いて得られた形質転換体において、導入された遺伝子は、転写レベルおよびタンパク質レベルで予想されたサイズで発現しており、欠失等は認められない(図2)。
  • OASA1D発現カセットと他の目的遺伝子発現カセットをコトランスフォーメーションした場合には、2つの発現カセットが両方導入された形質転換体が効率的に得られる(表2)。この手法を用いて得られた形質転換体での両カセットの挿入位置は独立であることが予想されるので、理論上、分離世代において片方の発現カセットのみを持つ系統を選抜できる場合がある。
  • PCR増幅した発現カセット領域のみを、特別な導入装置を使用しないウイスカ直接導入法と植物由来5MT選抜マーカーを組み合わせて使用することにより、消費者心理に配慮した実用的な形質転換作物の作出を可能にする。

成果の活用面・留意点

  • この方法でイネ由来遺伝子のみによる発現カセットを、イネに導入することにより、定義上のセルフクローニングが可能となる。
  • 5MT選抜マーカー遺伝子であるOASA1Dの発現に、恒常的高発現プロモーターであるユビキチンプロモーターを用いた場合、同時に全組織にて遊離トリプトファンを蓄積する。
  • ウイスカ法を用いて遺伝子を導入するために使用する液体培養カルスは、培養変異を回避するため、培養期間が長くなり過ぎないように注意する必要がある。

具体的データ

図1 ウイスカ法による導入試験に使用されたカセット領域の直鎖状DNA断片(A)とカセット領域を含む環状DNA(B)

 

表1 ウイスカ法と5MT選抜法による形質転換体の作出効率

 

表2 ウイスカ法と5MT選抜法を用いた、コトランスフォーメーションによる形質転換体の作出効率

 

図2 ウイスカ法と5MT選抜法で得られたカセット領域断片導入系統のOASA1RNAプローブを用いたノーザンブロット解析(A)、rRNAバンドの電気泳動図(B)およびOASA1ペプチド抗体を用いたウェスタンブロット解析(C)

 

その他

  • 研究課題名:トリプトファン含量の高い飼料用イネの開発
  • 課題ID:02-*-02-02-02-05
  • 予算区分:融合研究
  • 研究期間:2001∼2005年度
  • 研究担当者:小松 晃、長谷川久和(北興化学)、大武美樹、寺川輝彦(北興化学)、川岸万紀子、若狭 暁
  • 発表論文等:Komatsu et al. (2006) Plant Biotechnology 23:39-46