加熱後褐変を生じにくい食用大麦品種育成に有用なプロアントシアニジンフリー遺伝子

要約

大麦の褐変原因物質プロアントシアニジンとカテキンを激減させる12の突然変異遺伝子のうち、ant27ant28ant29の3遺伝子は、加熱調理後に褐変を生じにくい食用大麦の実用品種育成に有用である。

  • キーワード:オオムギ、プロアントシアニジンフリー遺伝子、ポリフェノール、加熱後褐変
  • 担当:作物研・大麦研究関東サブチーム
  • 連絡先:029-838-8260
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作(冬作)
  • 分類:研究・普及

    背景・ねらい

    大麦の種皮にはポリフェノール成分の一種であるプロアントシアニジンやカテキンが含まれている。これらの成分は搗精によっても完全には除去されず、加熱調理後の褐変の原因となり、大麦の食用利用を妨げる一因ともなっている。これらの褐変原因物質を欠失する突然変異として、大麦には12のプロアントシアニジンフリー遺伝子が報告されているが、各遺伝子が栽培特性や品質に及ぼす影響や、加熱後低褐変への効果は不明である。そこで、実用品種を遺伝的背景とする準同質遺伝子系統を作出して、これらの遺伝子が栽培特性や品質特性に及ぼす影響を解析し、育種上の有用性を明らかにする。

    成果の内容・特徴

    • 食用二条皮麦「ニシノホシ」を遺伝的背景とし、既知のプロアントシアニジンフリー全12遺伝子に関する準同質遺伝子系統群を作出した(表1)。
    • ant19は耐寒性を欠落させると考えられ、冬期に大半の個体が枯死する(図1)。ant18ant26ant30は整粒歩合が低く、ant30は著しく稔性を低下させる(表2)。
    • いずれの遺伝子も赤かび病抵抗性には影響を及ぼさない(表2)。
    • ant13ant17、ant18ant21、ant22、ant25ant26ant30は穂発芽耐性を弱くし、ant21ant25ではとくに弱くなる(表2)。
    • ant13ant17は精麦白度をやや低下させ、ant18ant30は残存する種皮の色素のため精麦白度を顕著に低下させる(表3)。
    • いずれの遺伝子もポリフェノール含量を半分以下に減少させ、プロアントシアニジンとカテキン含量を激減させる(表3)。ant13ant17、ant18、ant22ant30では加熱後や保温後の褐変が認められるが、ant21ant25ant27ant28ant29ではほとんど褐変が認められない(表3)。
    • 以上のことからant27ant28ant29の各遺伝子は、加熱調理後に褐変しにくい食用大麦の実用品種育成に有用である。

    成果の活用面・留意点

    • 「ニシノホシ」のプロアントシアニジンフリー準同質遺伝子系統群は、ポリフェノール成分に関する遺伝および生理研究のための材料として活用できる。

    具体的データ

    ニシノホシを遺伝的背景とする プロアントシアニジンフリー準同質遺伝子系統N(ant19)の冬期の黄変枯死

    準同質遺伝子系統における生育・収量

    準同質遺伝子系統における品質

    その他

    • 研究課題名:大麦・はだか麦の需要拡大のための用途別加工適性に優れた品種の育成と有用系統の開発
    • 中課題整理番号:311-d
    • 予算区分:基盤、高度化事業
    • 研究期間:2004~2009年度
    • 研究担当者:塔野岡卓司、吉岡藤治、青木恵美子
    • 発表論文等:Tonooka, T. et al. (2010) Breeding Science 60:172-176