アミロースが減少する3種の小麦Wx-A1遺伝子における変異の特定

要約

小麦Wx-A1対立遺伝子のうち、Wx-A1c -A1e は一塩基多型によるアミノ酸置換、Wx-A1i はエクソンへの挿入配列によって澱粉のアミロース含量が減少する。開発したDNAマーカーによって、3種のWx-A1 は他の対立遺伝子と識別できる。

  • キーワード:小麦、Wx 遺伝子、アミロース、澱粉、DNAマーカー
  • 担当:作物開発・利用 ・ 小麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8868
  • 研究所名:作物研究所・麦研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

澱粉のアミロース含量は小麦粉の特性を左右し、加工適性や製品の食感に関わる。アミロースは澱粉合成酵素の一種であるWxタンパク質によって合成される。通常、パン小麦では、Wx-A1、-B1、-D1タンパク質が働いているが、遺伝資源を電気泳動法で分析すると、各Wxタンパク質の分子量や等電点が変異した多型が見られる。これらは、Wx遺伝子に何らかの変異が起こったことによると考えられる。
Wx-A1 対立遺伝子のうちパキスタンの在来品種に由来するWx-A1c 、デュラム小麦に由来するWx-A1e および-A1i によってアミロース含量は野生型Wx-A1a に比べて減少する。そこで、これらのアミロース含量減少の要因を遺伝子の塩基配列レベルで明らかにし、交配後代の選抜に利用できるDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • Wx-A1a と比較して、Wx-A1c には第8および第9エクソンにアミノ酸置換を伴う一塩基多型(SNP)が一つずつある(図1)。後者の置換はトリプトファン→アルギニンで、正常なWx-B1 および-D1 タンパク質のこの位置はアルギニンであるため、アミロース減少の原因から除外される。したがって、第8エクソンのSNPによるグルタミン酸→グリシンが減少の要因である。
  • Wx-A1e にはSNPが5つと第1イントロンに40塩基の欠失がある(図1)。このうち、アミノ酸置換を引き起こすSNPは第9エクソンのSNPによるグルタミン酸→リシンのみである。このグルタミン酸は、酵素機能に重要であるとの報告があることから、第9エクソンのSNPがアミロース減少(モチ)の要因である。
  • Wx-A1i にはアミノ酸置換を伴わない3つのSNP、第1エクソンに3塩基の挿入、第1イントロンに40塩基の欠失、第12エクソンに376塩基の挿入がある(図1)。このうち、376塩基の挿入によってmRNAの3'末端が異常となり、アミロース含量が減少すると予想される。
  • Wx-A1cWx-A1eWx-A1 遺伝子の第7~9エクソンを特異的に増幅するプライマーを用いたPCR産物を制限酵素で切断すること(CAPSマーカー)により他のWx-A1 対立遺伝子と識別できる。Wx-A1i はプライマー3'FR1と3'FR2を用い、他より376塩基(挿入配列の長さ)大きいPCR産物によって識別できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • DNAマーカーは交配後代の選抜に活用できる。PCRの条件等はYamamori and Guzmán (2013)を参照のこと。
  • Wx-A1cWx-A1eWx-A1iWx-A1a 由来のWxタンパク質のみを持つ小麦系統のアミロース含量を表1に示す。
  • Wx-A1i に対するプライマーはWx-B1 あるいは-D1 も増幅する。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
  • 中課題整理番号:112d0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(水田底力)
  • 研究期間:2009~2012 年度
  • 研究担当者:山守誠
  • 発表論文等:Yamamori M. and Guzmán C. (2013) Euphytica 192(3):325-338