出芽期大豆の冠水ストレス応答にカルシウムが関与する

要約

出芽期の大豆では冠水ストレスにより子葉中のシュウ酸カルシウムが減少し、細胞内のカルシウム応答性タンパク質が変動する。カルシウムの添加によりストレスが緩和されることから、カルシウム濃度の上昇がストレス応答に重要である。

  • キーワード:大豆、出芽期、湿害、プロテオミクス、カルシウム
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話 011-857-9382
  • 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大豆は出芽期の数日間の冠水ストレスで根に障害が発生し、その後の生育遅延を引き起こす。大豆の湿害を生育初期に回避することは、わが国における水田転換畑での大豆栽培のリスクを低減させ、生産性の安定・向上に貢献する。シロイヌナズナ等のモデル植物においては、環境ストレスによる根の生育遅延を、カルシウム添加が緩和することが報告されているが、冠水ストレスに関して効果があるかどうかは不明である。そこで、タンパク質科学的手法や生化学的手法を用いて、冠水ストレス下の大豆におけるカルシウムの関与を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 播種後2日目から2日間冠水処理した大豆子葉を、X線断層撮影装置を用いて解析すると、冠水により顕著に減少する物質が検出される(図1左)。
  • 冠水で減少するこの物質は炭素、酸素、カルシウム(C:O:Caの存在比2:4:1)より構成されるシュウ酸カルシウムである(図1右)。
  • 播種後2日目からの冠水処理時に塩化カルシウムを添加した場合、冠水下で抑制される根の生長が、50mM濃度の塩化カルシウムにより回復する(図2左)。
  • 細胞死の指標であるエバンスブルーの取り込みを解析した結果、冠水時に塩化カルシウムを添加すると、根の細胞死が抑制される(図2右)。
  • プロテオミクス解析の結果、播種後2日目から2日間冠水処理した大豆の根、胚軸、子葉では、熱ショックタンパク質が各器官で共通に蓄積する。さらに、冠水下では、カルシウムイオン結合タンパク質、カルシウム依存性膜結合タンパク質、カルレテイキュリン、カルネキシン等、カルシウム情報伝達系に関与するタンパク質群が変動する。

成果の活用面・留意点

  • 本研究におけるシュウ酸カルシウムの溶解およびエバンスブルーの取り込みの結果は、「エンレイ」で得られたものである。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:112g0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(二国間)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:小松節子、南條洋平、西澤けいと、平賀勧、藤郷誠、牧野孝宏(農水光学研)、安江博(生物研)、MyeongWon Oh(筑波大)
  • 発表論文等:
    1) Komatsu S. et al. (2013) PLoS One 8(6):e65301.
    2) Oh M. et al. (2014) Front. Plant Sci. 5:e559.