耐塩性が強く茎葉が多収な稲発酵粗飼料用新品種「ソルトスター」

要約

「ソルトスター」は耐塩性が強く、塩害発生地域で利用できる茎葉多収の稲発酵粗飼料用系統である。「ソルトスター」は「リーフスター」と比較し出穂が6日遅く、黄熟期が9日遅い極晩生である。

  • キーワード:稲発酵粗飼料、茎葉多収、極晩生、耐塩性
  • 担当:自給飼料生産・利用・飼料用稲品種開発
  • 代表連絡先:電話 029-838-8950
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

震災で発生した津波の被害を受けた地域では、イネ栽培を再開できたにもかかわらず海水に含まれている塩によってイネの生育障害が発生している。そのためイネ栽培を再開するために、耐塩性が強い品種の育成が期待されている。また、津波被災地域では、乳牛用として子実よりも茎葉の割合の高い稲発酵粗飼料の品種が望まれている。そこで、耐塩性が強く、茎葉を主体とする稲発酵粗飼料用の品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「ソルトスター」はインド型品種「Nona Bokra」の優れた耐塩性を、稲発酵粗飼料用品種「たちすがた」に導入している。「ソルトスター」の耐塩性は"極強~強"で、幼苗期における耐塩性は"強"である(表1、写真1)。また、石巻市現地圃場において「ソルトスター」の葉に含まれるNa+濃度が「リーフスター」より低い(図1)。
  • 「ソルトスター」の早晩性は出穂期が育成地で「リーフスター」より6日遅く、黄熟期が9日遅く、"極晩生"に属する粳種である(表1)。石巻市では出穂期が「リーフスター」より9日遅い。
  • 「ソルトスター」は稈長が128cmと極長稈であり、耐倒伏性は「リーフスター」より弱い"中"である(表1)。
  • 「ソルトスター」は地上部乾物収量が「リーフスター」に比べて育成地で15%程度多く、石巻で55%多い(表1)。
  • 「ソルトスター」は消化されやすい茎葉の割合が高く、稲発酵粗飼料に適する(表1)。
  • 「ソルトスター」は粗玄米収量が48.9kg/aと「リーフスター」に比べて70%程度多く、玄米千粒重は27.2gで、大粒でやや細長い粒形をしている(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 東北中部以南の地域に適している。今後、400ha以上の被災水田の復旧にともない、塩害の発生する水田が増加すると考えられている。「ソルトスター」の導入により、津波被災地域のイネ栽培の再開を促進できる。2015年は石巻市で数haの導入が見込まれている。
  • 耐倒伏性が十分でないため、多肥は避け、刈り遅れに注意する。
  • 白葉枯病に弱いので、常発地帯では作付しない。
  • いもち病真性抵抗性Pibを持つと推定され葉いもち圃場抵抗性が不明であるので、侵害菌の発生に注意するとともに、発生が見られた時は防除を徹底する。
  • 東北中部地域では籾(玄米)収量が低く、大粒であるので種子の生産性が低い。

具体的データ

図1,表1,写真1

その他

  • 中課題名:低コスト栽培向きの飼料用米品種及び稲発酵粗飼料用品種の育成
  • 中課題整理番号:120a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開、国産飼料)
  • 研究期間:2007~2014年度
  • 研究担当者:竹内善信、小林伸哉、石井卓朗、山口誠之、平林秀介、黒木慎、後藤明俊、久野陽子、加藤浩、春原嘉弘、根本博、安東郁男、佐藤宏之、前田英郎、田中淳一、津田直人、常松浩史、池ヶ谷智仁、太田久稔
  • 発表論文等:品種登録出願2015年6月25日(第30280号)