増殖能と分化能を有する牛乳腺上皮細胞株の樹立

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要約

ホルスタイン種雌牛(未経産牛)の発達した乳房より、増殖能と分化能を有した乳腺上皮細胞株(BMEC細胞)を樹立できる。

  • 担当:畜産試験場 生理部 動物細胞機能研究室
  • 連絡先:0298(38)8689
  • 部会名:畜産
  • 専門:生理
  • 対象:乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

乳汁を生産する乳腺の実質は、乳腺胞とそれに接続する乳管であり、乳汁生産を行う最小単位は乳腺胞を形成する乳腺上皮細胞である。泌乳活動は、 内的要因(ホルモンと栄養素)と外的要因(環境条件と搾乳)により制御されており、これらの要因の乳腺上皮細胞に対する作用を解明できれば、乳牛における 安定した高品質の乳生産の制御が可能となる。しかし、牛においては、長期培養が可能で、かつ、分化能を有した乳腺上皮細胞株の報告はないのが現状である。 よって、本研究ではホルスタイン種牛の乳腺上皮組織を用いて、上皮細胞の調整法と培養法を検討し、牛乳腺上皮細胞株の樹立を行う。

成果の内容・特徴

  • 乳腺上皮細胞株(BMEC細胞)の樹立。 ホルスタイン種雌牛(未経産)の乳腺胞より細胞を採取し、増殖性を示す細胞群よりクローニングを行い、ウシ乳腺上皮細胞株(bovine mammary epithelial cell: BMEC細胞)の樹立に成功した。
  • 増殖能。 BMEC細胞は、上皮細胞特有な石垣状形態を呈し( 図1,A )、上皮細胞マーカーであるサイトケラチンを発現していた( 図1、B )。1.2x104cells/cm2の細胞密度で培養を開始すると、培養5日目で飽和状態に達し( 図2 )、継代数35代までは、培養5日間で3~5倍の増殖性を示したが、以後40代までは低下していった( 図3 )。
  • 分化能。マトリゲルコートシャーレ上で培養したBMEC細胞は、増殖培地処理で乳管形成、分化誘導培地処理で乳胞形成等の形態変化が誘導され( 図4 )、両処理群においてラクトフェリンの合成が確認された。樹立したBMEC細胞は増殖能と分化能を有することが判明した。

成果の活用面・留意点

  • 乳腺上皮細胞の培養では、未経産牛で乳腺の発達状態が良い牛を選択することにより、細胞株樹立の確率は高くなる。
  • 本研究で樹立した牛乳腺上皮細胞株(BMEC細胞)を用いて、泌乳機構の解明および乳牛における安定した高品質の乳生産制御技術開発へ向 けて、細胞レベルあるいは遺伝子レベルでの研究が可能となる。また、乳汁中への物質生産を行うトランスジェニック家畜に用いる遺伝子発現ベクターの開発の おいて、BMEC細胞を用いたin vitro評価が可能となる。

具体的データ

図1 BMEC細胞の写真。A)光顕写真。B)サイトケラチン抗体による蛍光染色写真。

図2 BMEC細胞の増殖曲線

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図4 マトリゲルコートシャーレ上でのBMEC細胞の形態変化

その他

  • 研究課題名: ウシ乳腺細胞株の樹立とドナー細胞核への応用技術の開発
  • 予算区分: 経常・動植物工場
  • 研究期間: 平11~13年度
  • 研究担当者: M.T.Rose、麻生 久
  • 発表論文等:
    1.妊娠末期ウシ乳腺上皮細胞への細胞外基質、催乳ホルモン及びIGF-Iの影響、第94回日本畜産学会、P120、1998.
    2.妊娠初期ウシ乳腺上皮細胞におけるカゼイン合成及び増殖に及ぼすデキサメサゾンの影響、第95回日本畜産学会、P98、1999.