ニホンジカの糞中プロジェステロン濃度測定法

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要約

ニホンジカの糞に含まれるプロジェステロン濃度は、血中濃度と相関性が認められ、これを測定することによって、シカの黄体機能の簡便なモニタリングが可能である。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 生殖内分泌研究室
  • 連絡先:0298-38-8633
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象:野生動物
  • 分類: 研究

背景・ねらい

ニホンジカは食肉、皮革、生薬生産の素材として注目を集めるとともに、農林業に甚大な損害をもたらす害獣として、生息域における個体数調節 の必要性が提唱されている。シカ資源を保全しつつ、適正な個体密度を達成するためには、シカの繁殖機構を解明し、生息地域における繁殖効率を的確に把握す る必要があるが、ニホンジカの繁殖機構に関する知見は乏しいのが現状である。また、シカの採血は非常に困難で、時にはシカが事故死してしまうため、広範に は実施されてこなかった。 本研究においては、これまで主に血液サンプルで実施されてきたニホンジカの黄体機能評価を非侵襲的な手法で代替することを目的として、ニホンジカの糞中 プロジェステロン測定を放射性物質を使用しない測定系を用いて実施する手法を確立した。

成果の内容・特徴

  • 採取後に凍結して保存された糞を解凍し、乾燥や粉砕を行うことなくジエチルエーテルで抽出を行い、抽出物のプロジェステロン を時間分解蛍光免疫測定法で測定する。糞サンプルの水分含量は糞を乾燥して乾物率を算定し、プロジェステロンの測定成績を糞乾物1グラム当たりのプロジェ ステロン量として算出する (図1)。
  • この測定系の最少検出限界は3.8ng/g、測定内及び測定間変動係数は、それぞれ7.7および10.1%であった
  • 同時に採取した16検体の血漿と糞のプロジェステロン値は、相関係数r=0.829の相関を示したが、その値を比較すると、糞中濃度は血漿中の約100倍であった (図2)。
  • 繁殖季節のニホンジカ糞中プロジェステロン濃度は周期的に変動し、発情間期で高く、発情発現後1-2日で最低値を示した (図3)。発情行動と糞中濃度変化のタイムラグは、肝臓における代謝と胆汁の消化管通過に要する時間に起因するものと思われた。
  • 妊娠シカの糞中プロジェステロン濃度は黄体期よりも更に上昇し、妊娠末期まで高値を持続した (図4)。

成果の活用面・留意点

糞中のプロジェステロン濃度は、排糞後の時間経過と共に上昇するので、排糞から採取・凍結までの時間や温度の管理に注意する必要がある。

具体的データ

図1 糞中プロジェステロン測定

 

図2 血中と糞中のプロジェステロン濃度の相関

 

図3 繁殖季節の糞中プロジェステロンの濃度推移

 

図4 妊娠シカの血中および糞中プロジェステロンの推移

 

その他

  • 研究課題名: 繁殖抑制技術によるシカ、イノシシ個体群の密度管理に関する技術開発
  • 予算区分: 小事項[鳥獣害]
  • 研究期間: 平成12年度(平成11~12年度)
  • 研究担当者: 高橋 透、今井 敬、竹澤俊明、橋爪一善
  • 発表論文等:
    1.時間分解蛍光免疫測定法によるニホンジカの血中プロジェステロン濃度の測定 第97回日本畜産学会2000年3月
    2.糞中プロジェステロン濃度測定による、ニホンジカ黄体機能の非侵襲的モニタリング手法の検討 第93回日本繁殖生物学会 2000年10月
    3.Direct Time-resolved fluorescence immunoassay(TR-FIA)for plasma progesterone concentration in the doe(Cervus nippon centralis). J.Reprod.Dev47(2).2001.印刷中