傾斜地放牧が育成牛の筋肉性状に及ぼす効果

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要約

傾斜地における放牧育成牛は等高線沿いに歩行する傾向が強く,斜面の緩急による運動量の増加は少ない.しかし舎飼牛と比較すると胸最長筋浅部,大腿直筋,半膜様筋で好気的代謝が盛んなI型筋線維が増加する.

  • 担当:草地試験場 山地支場 家畜飼養研究室
  • 連絡先:0267-32-0758
  • 部会名:草地・永年草地・放牧畜産
  • 専門:飼育管理
  • 対象:肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

放牧が肉用種育成牛に及ぼす影響として,これまではエネルギーの損失など負の面が多く指摘されてきたが,中山間地の利用を推進する上からも,高 標高・傾斜地放牧がもたらす家畜の運動生理活性の変化を把握し,積極的に生産に利用することが望まれる.そこで,傾斜放牧地および牛舎における育成牛の運 動量を調査するとともに,筋細胞内酵素活性に基づいた筋線維型割合に及ぼす影響を明らかにする.

成果の内容・特徴

  • 11ヶ月齢の去勢育成牛を隣接する草地(急傾斜区:8.9~22.0度,緩傾斜区:4.6~11.3度)および舎飼いで飼養し,運動量を 調査した.急傾斜区では等高線沿いを歩行する傾向が強く,1日当たりの歩行距離および垂直移動距離ともに急傾斜区と緩傾斜区で差が無かった (表1).両傾斜区の筋肉性状にも差が無かった.
  • 放牧6ヶ月後の筋肉性状について放牧区(急傾斜区と緩傾斜区)を舎飼区と比較すると,収縮に持久力のあるI型筋線維注)が胸最長筋の浅部,大腿直筋および半膜様筋で増加する傾向にあった (図1).また,後肢の半膜様筋および腓腹筋にはII型筋線維注)からI型へ移行中の中間型筋線維が多く見られた.
  • 放牧区では舎飼区に比べ,姿勢保持に関与する胸および腰最長筋の筋線維径が大きい傾向があった.後肢(大腿直筋,半膜様筋,腓腹筋)では,収縮が速く運動に関わる筋線維を中心に径が増大する傾向があった (図1). 注)I型筋線維(赤色筋線維)は酸化的リン酸化により,II型筋線維(白色筋線維)は解糖系によりエネルギーを獲得する.

成果の活用面・留意点

I型筋線維を多く含む筋肉は肥育過程で脂肪を蓄積する能力が高いことが知られており,放牧育成牛の肥育素牛としての評価に利用できる.

具体的データ

表1 育成期における一日当たりの運動量

図1育成期終了時(17ヶ月齢)における各筋肉のI型線筋割合と筋繊維径

 

その他

  • 研究課題名:傾斜草地放牧による運動蓄積が筋肉の組織成長と脂質代謝に及ぼす影響
  • 予算区分 :畜産対応研究〔自給飼料基盤〕
  • 研究期間 :平成12年度(平成10年~12年)
  • 研究期間:木戸恭子,(寺田隆慶),林義朗
  • 発表論文等:1)急傾斜地と緩傾斜地に放牧された肉用育成牛の歩行距離,第95回日本畜産学会大会講演要旨,P13,1999 2)山地放牧が肉用育成牛の筋線維型構成と筋線維径に及ぼす影響,第97回日本畜産学会大会講演要旨,P129,2000