子牛は胎子期よりも出生後哺乳を介して多量のダイオキシン類を摂取する

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要約

自然哺育された子牛とその母牛のダイオキシン類による汚染状況を調べた。出生直後の子牛の血中濃度は母牛の血中濃度より低く、胎盤が障壁として機能していると考えられた。一方、哺乳子牛は乳汁から多量の脂溶性汚染物質を摂取していた。

  • キーワード:牛、繁殖、環境ホルモン、ダイオキシン類、母子移行
  • 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・繁殖技術研究室
  • 連絡先:電話0287-37-7810、電子メールhirakoma@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

内分泌かく乱物質の生物への影響が危惧されているが、環境中の内分泌かく乱物質が牛に及ぼす影響については調べられておらず、その汚染状況についてもほとんど分かっていない。そこで、内分泌かく乱物質への感受性の高い胎子および哺乳期の子牛について、雌牛の血液中に存在する汚染物質(ダイオキシン類)が、胎盤や乳汁を介してどの程度移行しているかを調べた。

成果の内容・特徴

  • 放牧飼養されている交雑種(黒毛和種×ホルスタイン種)雌牛3頭および黒毛和種胚移植によって生まれたその産子を供試し、親子の血液と乳汁を出生直後(授乳前)および出生後約1ヶ月に採取した。それぞれの試料について、ダイオキシン、フランおよびコプラナーPCBの濃度を測定した。
  • 子牛の血液中ダイオキシン類濃度は、出生直後に低く、出生後1月には大きく上昇する(図1a)。一方、分娩直後と1月後の母牛の血液中ダイオキシン類濃度には差が無い。また、乳汁中のダイオキシン類濃度は、概ね乳脂肪率に比例し、総重量比では、乳脂率の高い初乳の方が分娩後1月の乳よりも高い。母牛の血液と乳汁中の濃度を比較すると、乳汁の方が脂肪重量当たりのダイオキシン類濃度が高く、脂肪含量も多い(図1b)ことから、乳汁には脂溶性の汚染物質が濃縮して蓄積されると考えられる。これらのことから、子牛は胎子期よりも哺乳によって多くの内分泌かく乱物質を摂取していることが分かる。
  • 同族体毎の濃度を比較すると、O8CDDは母牛の乳汁より血液に多く(図3b)、1月齢より新生子牛の血液に多く含まれている(図2b)。一方、2,3',4,4',5-P5CBは母牛の血液より乳汁に多く(図3a)、新生時より1月齢子牛の血液に多く含まれている(図2a)。これらのことから、O8CDDは胎盤を介して、2,3',4,4',5-P5CBは乳汁を介してより多く子牛に移行すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 自然哺育子牛は授乳によって多くのダイオキシン類を摂取している。本成果は摂取量低減の参考となる。
  • 母乳の授乳によって摂取するダイオキシン類の量で子牛に影響が出るかどうかは調べられておらず、さらなる調査が必要である。

具体的データ

図1.出生時と生後1ヶ月の子牛血液(a)、その母牛の血液および乳汁(b)中ダイオキシン類濃度および脂肪含量

 

図2.子牛血液中ダイオキシン類濃度の推移

図3.母牛体液中のダイオキシン類濃度

その他

  • 研究課題名:妊娠牛の血液中内分泌かく乱物質の胎子への移行様式の解明
  • 予算区分:環境ホルモン
  • 研究期間:1999~2002年度
  • 研究担当者:平子誠