効率的なQTL探索方法の開発と活用法

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要約

ポリジーンとQTLの効果を同時に推定できる数学的方法を新たに開発した。本法により効率的なQTL探索と遺伝的パラメータ推定が可能となり、純粋種の豚の2つの染色体上に成長速度、脂肪厚に関与するQTLが存在することを明らかにした。

  • キーワード:家畜育種、ブタ、QTL、ポリジーン
  • 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・家畜育種研究室
  • 連絡先:電話029-838-8625、電子メールnagamine@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

家畜の遺伝的能力は、各々の効果は小さいが非常に数の多いポリジーン(微働遺伝子)によって支配されている。近年、その中でも大き な効果を持つQTL(量的遺伝子座)が報告されているが、これらは主に品種間の交雑種を用いて発見されたものである。しかし現実には、牛では純系のホルス タイン種や黒毛和種、豚では系統造成事業における品種内・系統内の改良が求められており、品種内での効率的なQTL探索方法の開発が課題となっている。そ こで、純粋種を対象として、QTLとポリジーンを同時に解析できる方法を検討し、実際に純粋種の豚を用いて新たな探索方法の有効性を確認した。

成果の内容・特徴

  • 既知のマーカー遺伝子を指標として用いることにより、ポリジーンとQTL遺伝子の両者を同時に推定できる。この場 合、そのマーカーと連鎖するQTLの存在を推定するため、親の持つ一対のマーカー遺伝子のどちらが子へ伝わったかを判定しなければならない。その判定法と して新たな数学的決定法であるSMD(Simple deterministic)法を開発した。このSMD法と従来法(最小二乗法)を用いて、5つの純粋種の豚集団(ランドレース3、大ヨークシャー1, デュロック1集団)におけるQTLを探索したところ、いずれも3集団でQTLが発見されたが、SMD法でより高い指標値が得られた(図、表1)。
  • 2つの方法で独立に発見されたQTLは、互いに各染色体上での位置も近く、SMD法が有用なことが示された(表1)。また、脂肪厚(Bの第4染色体、Cの第7染色体)に見られるように、従来法では有意とならなかった位置でもQTLの存在を明らかにできる。
  • この新たな手法により、3つの純粋種の豚集団(1∼3)のデータを用いて成長速度や皮下脂肪厚のQTLの遺伝子型値とポリジーンの遺伝分散を計算し遺伝率を推定した結果、QTLの遺伝率は8.6∼17.3%、ポリジーンの遺伝率は1.9∼40.0%であった(表2)。一般にQTLの遺伝率はポリジーンの遺伝率よりやや小さいが、形質によってはポリジーンの遺伝率より大きなものもある。

成果の活用面・留意点

  • 純粋種内においても、予想以上に大きな効果を持つQTLが存在するが、選抜にあたっては、ポリジーンの効果とQTLの効果を同時に考慮した選抜が必要である。
  • 本手法は他の家畜種にも適応可能である。

具体的データ

図 従来法(最小二乗法)と新法(SMD法)による豚のQTL探索結果の比較

 

表1 従来法と新法(SMD)による豚のQTL探索

 

表2 ポリジーンとQTL遺伝子型値の遺伝率(%)

 

その他

  • 研究課題名:効率的なQTL解析方法の開発と育種への応用
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2003∼2005年度
  • 研究担当者:長嶺慶隆、佐々木修、石井和雄、韮沢圭二郎
  • 発表論文等:
    1) Nagamine et al. (2004) Genetics Selection Evolution, 36,83-96
    2) Nagamine et al. (2003) Genetics, 164, 629-635
    3) Nagamine et al. (2002) Genetical Research (Cambridge Univ.), 80, 237-243