亜硝酸酸化細菌の添加による家畜排泄物堆肥化過程でのN2O発生制御

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要約

家畜排泄物の堆肥化処理では、堆肥中の亜硝酸態窒素濃度と温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O)の発生との間に高い正の相関が認められる。亜硝酸酸化細菌の添加により堆肥中への亜硝酸態窒素の蓄積は解消されるとともにN2Oの発生も抑制される。

  • キーワード:亜酸化窒素(N2O)、亜硝酸態窒素、亜硝酸酸化細菌、堆肥化処理、硝化作用、畜産環境
  • 担当:畜産草地研・浄化システム研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8677、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

地球温暖化による気候変動の顕在化が指摘されるなか、温室効果ガスの発生制御はこれまで以上に喫緊な課題となっている。畜産業から発生する主要な温室効果ガスとして、窒素含有量の多い家畜排泄物の酸化処理工程から発生する亜酸化窒素(N2O)がある。固形分の酸化処理法である堆肥化では高温発酵終了後の堆肥化中期~後期にかけてN2O発生の極大が生じるが、このとき堆肥中には亜硝酸態窒素が蓄積しており、両者の間には高い正の相関関係が認められる。そこで硝化細菌の一種である亜硝酸酸化細菌を、亜硝酸態窒素の蓄積を解消する目的で添加した場合に堆肥中の亜硝酸態窒素遷移およびN2O発生に与える影響について、豚ふん堆肥化処理のケースで検証する。

成果の内容・特徴

  • 豚ふんの堆肥化処理におけるN2O発生速度は、堆肥中の亜硝酸態窒素濃度と高い正の相関がある。一方、硝酸態窒素濃度との間に正の相関性は認められないことから、堆肥化処理におけるN2O発生を抑制するためには堆肥中の亜硝酸態窒素を硝酸態窒素まで完全に酸化分解することが有効と考えられる(図1)。
  • 堆肥化過程におけるN2Oの発生パターン(図2:対照区)は堆肥中亜硝酸態窒素濃度の推移(図3:対照区)と相似する。亜硝酸態窒素の検出は、堆肥化処理からの発生濃度レベルでは官能的に感知できないN2Oの簡易発生マーカーとなり得る。
  • 亜硝酸態窒素の酸化分解促進のため、堆肥化高温発酵終了直後に豚ふん完熟堆肥(含有亜硝酸酸化細菌数:1.7×106 MPN/g現物)を添加すると、堆肥中亜硝酸態窒素濃度は添加しなかった場合に比べて大幅に低減化される(図3:添加区)。また、N2Oの発生も添加しなかった場合に比べて速やかに終息する(図2:添加区)。本試験における対照区と完熟堆肥添加区のN2O総発生量は、それぞれ88.5および17.5 g N2O-N/kg T-N(初発時)であり、高いN2O発生抑制効果が認められる(N2O発生量減少率:80%)。また、発生を抑制されたN2O分の窒素は、硝酸態窒素として堆肥中に保持される。
  • 硝化細菌の計数結果から、豚ふん堆肥化における亜硝酸態窒素の蓄積は亜硝酸酸化細菌の増殖遅延による不完全な硝化作用に起因すると考えられる。また、豚ふん堆肥化において亜硝酸態窒素の蓄積を解消するためには、堆肥1gあたり亜硝酸酸化細菌が約105 個以上必要である(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 家畜排泄物堆肥化処理から発生するN2Oガス制御技術開発に寄与する知見である。
  • 本データは小型堆肥化装置を用いた試験結果に基づくため、実規模試験による検証が必要である。

具体的データ

図1.堆肥中の亜硝酸(NO2-N)・硝酸(NO3-N)態窒素濃度と亜酸化窒素発生速度との関係(豚ふん堆肥化処理)図2.豚ふん堆肥化処理において亜硝酸酸化細菌を含む完熟堆肥を添加した場合の亜酸化窒素発生パターン(完熟堆肥添加試験)

図3.豚ふん堆肥化処理における堆肥中亜硝酸態窒素濃度の推移(完熟堆肥添加試験)図4.豚ふん堆肥化処理における硝化細菌数の推移(完熟堆肥添加試験)

その他

  • 研究課題名:家畜生産における悪臭・水質汚濁等の環境対策技術の総合的検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-s
  • 予算区分:基盤、環境総合
  • 研究期間:2005~2006年度
  • 研究担当者:福本泰之、鈴木一好、黒田和孝、花島大、安田知子、長田隆(北海道農研)
  • 発表論文等:Fukumoto et al. (2006) Environ. Sci. Technol. 40(21): 6787-91.