MAP形成による家畜ふんの堆肥化からのアンモニア発生低減

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要約

家畜ふんに水溶性のマグネシウム塩、リン酸を添加して堆肥化処理することにより、堆肥中にリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)が形成され、処理過程でのアンモニア発生を顕著に低減することができる。

  • キーワード:MAP、家畜ふん堆肥化、アンモニア発生低減、畜産環境
  • 担当:畜産草地研・浄化システム研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8677、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

家畜排せつ物の堆肥化処理からはアンモニアを主体とする高濃度の臭気が発生し、しばしば悪臭苦情を引き起こすことから、有効な臭気対策技術が求められている。
マグネシウム、リン酸、アンモニウムが弱アルカリ域で共存すると、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の結晶を形成する。本研究ではアンモニアの固定化反応としてのMAP形成反応を堆肥化に応用し、処理の過程で堆肥中にMAPを形成させることでアンモニアの発生を低減する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 豚ぷんとオガクズの混合物(含水率約64%、VS含有率86~87%乾重)を試料とし、苦汁(MgCl230%含有)と工業用リン酸(85%)を添加して小規模の堆肥化試験(4kg、強制通気式(通気量0.45L/min))を行ったところ、処理過程でのアンモニア発生が顕著に低減されることを確認した(図1)。
  • MgCl2単独添加でも若干のアンモニア発生低減効果が得られることから、リン酸の添加量はMgCl2に対して豚ぷん1kgベースで0.015mol程度少なめに設定することができる。薬剤添加量の増加に従ってアンモニア発生量は段階的に低減される。但し、リン酸の添加は有機物分解に阻害的に作用する(図2)。薬剤のコストは図1、2の最大添加量(豚ぷん1kg当たりMgCl20.06mol/H3PO40.045mol、苦汁19.7ml/リン酸3.1ml)で豚ぷん1kg当たり¥1.4、成豚1日の排泄量(3.0~3.5kg)当たり¥4~5であった。
  • 小規模試験での最大薬剤添加量に基づいて、同様の素材(含水率約65%、VS含有率85%乾重)を用いて、より規模の大きい堆肥化試験(≒320kg、自然通気・ヘッドスペース換気式(換気量45L/min))を行ったところ、小規模試験の場合に近似したアンモニア低減効果が得られた(図3)。
  • MAP形成堆肥は、作物肥料として植物の発芽や生育に悪影響を及ぼすことなく、薬剤無添加の堆肥に比べて同等以上の品質を有することが確認された(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 当技術は家畜排泄物の堆肥化処理における臭気対策として有効である。本研究で得られた薬剤添加量とアンモニア低減効果の相関は、薬剤使用量の設定基準として活用できる。また、MAP形成堆肥は良質の作物肥料として利用できる。
  • 堆肥化処理からのアンモニア発生は、畜種、尿の混入、副資材の種類、処理の形式・期間等の諸要因によって変わってくるため、薬剤添加量は、想定される素材や処理条件等に合わせて試験的な堆肥化処理を行った上で決定することが望ましい。
  • リン酸の添加によりpHが低下し、堆肥化初期の短期間に低級脂肪酸類の高濃度発生が起こるため、場合によっては、この時期の処理場所の物理的遮蔽を強化する等の臭気対策が必要である。また、堆肥化初期の温度上昇がやや遅れる。
  • 当試験で使用した薬剤の単価は、苦汁\30,000/t、工業用リン酸\150/kgであるが、薬剤の価格には変動があり、特にリン酸の価格は現在上昇しつつある。

具体的データ

図1 アンモニア発生濃度の推移(小規模試験)図2 堆肥化処理でのVS および窒素の減少率(小規模試験)

図3 アンモニア発生濃度の推移(320kg 規模試験)

表1 コマツナを用いた植害試験の結果

その他

  • 研究課題名:家畜生産における悪臭・水質汚濁等の環境対策技術の総合的検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-s
  • 予算区分:バイオリサイクル
  • 研究期間:2005~2006年度
  • 研究担当者:黒田和孝、花島大、福本泰之、安田知子、鈴木一好、和木美代子、代永道裕