硝酸態窒素を蓄積しにくいイタリアンライグラスの選抜手順と多面的選抜効果

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要約

乾物あたりの硝酸態窒素濃度等を指標とした個体選抜を5世代繰り返すと、硝酸態窒素濃度が既存品種中最も低い「ワセアオバ」の約60%まで低下する。選抜集団では乾物率が向上し、カリウム濃度が低下するなど、硝酸態窒素濃度以外にもプラスの選抜効果が認められる。

  • キーワード:硝酸態窒素、イタリアンライグラス、カリウム、土壌肥料、飼料作物育種
  • 担当:畜産草地研・飼料作生産性向上研究チーム、飼料作育種研究チーム、飼料作環境研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7559、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年、家畜飼養頭数の増加により、飼料畑に投入される家畜ふん尿量が増加している。その結果、作物中に硝酸態窒素が高濃度で蓄積され、反すう家畜に対する硝酸塩中毒が懸念される。イタリアンライグラスは主要な飼料作物であるが、窒素施肥によく反応して硝酸態窒素を蓄積しやすいことが知られている。また同時に、飼料作物に含まれるカリウムなどのミネラルバランスの悪化による反すう家畜への悪影響も指摘されている。このため、硝酸態窒素を蓄積しにくいイタリアンライグラス実用系統の作出を試みるとともに、選抜に伴う他の形質への影響を検討する。

成果の内容・特徴

  • 幼苗検定による選抜手順(平成13年研究成果情報)を一部改良し、幼苗だけでなく圃場での出穂期の硝酸態窒素濃度等の評価を加えた実用系統育成のための選抜を試みた。すなわち、温室内で50mMの硝酸カリウム溶液で生育させたイタリアンライグラス幼苗について、乾物および新鮮物あたりの硝酸態窒素濃度が低い個体を圃場に移植する。翌春、Nおよび K2Oとしてそれぞれ7.5kg/10aの硫安と塩化カリを収穫の2週間前と3週間前の合計2回施用する。圃場での出穂期や草姿、耐倒伏性、乾物あたりの硝酸態窒素濃度を同時に評価して個体を選抜し、隔離交配して次世代とする。1世代あたりの選抜率は幼苗時25%、出穂時20%程度とする。
  • この手順によって得られた選抜第2世代(G2)~第5世代(G5)では、世代が進むごとに硝酸態窒素濃度が低下する(図1)。
  • G5の硝酸態窒素濃度は市販品種の中で最も低いワセアオバの約60%まで低下する(図2)。
  • 選抜が進むにつれて、乾物あたりのカリウム濃度が低下する(図3a)。これは乾物率が高くなることが原因と思われる(図3b)。
  • 生育が劣る個体を除外しているため、世代が進んでも乾物収量(図3c)および土壌からの窒素吸収量(図省略)は変わらない。

成果の活用面・留意点

  • 幼苗および出穂時における低硝酸態窒素濃度等を指標としたこの選抜手順は、硝酸態窒素濃度の低下だけでなく、乾物率の増加やカリウム濃度の低下を伴うため、今後の実用系統育成に有望である。
  • 硝酸態窒素を過剰に蓄積させるために1作あたり牛ふん堆肥を15t/10a連用している二毛作圃場を用い、硫安をNとして秋と春に15kg/10aずつ施用して栽培した結果である。

具体的データ

図1 選抜系統における硝酸態窒素濃度の選抜反応(2006 年)図2 低硝酸選抜系統G5 と市販品種の硝酸態窒素濃度の比較(2006 年)

図3 選抜系統におけるカリウム濃度(a)、乾物率(b)、乾物収量(c)の選抜反応(2006 年)

その他

  • 研究課題名:粗飼料自給率向上のための高TDN収量のとうもろこし、牧草等の品種育成
  • 課題ID:212-c
  • 予算区分:委託プロ(エサプロ)、交付金
  • 研究期間:2000~2006年度
  • 研究担当者:川地太兵、荒川明、原田久富美、須永義人、水野和彦、畠中哲哉、江波戸宗大