塩分濃度の高い堆肥の施用時におけるイオンバランス評価としてのARK+Na

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要約

塩分濃度の高い堆肥施用時にも対応できる土壌溶液の陽イオンバランス指標ARK+Naをミニトマトの温室ポット栽培に適用した。ミニトマト一段目果実の形成開始時期にARK+Na値が-1.25を下回ると尻腐果が発生する危険性が高い。

  • キーワード:陽イオンバランス、高塩類堆肥、土壌溶液、ARK+Na、飼料作物栽培・調製・評価
  • 担当:畜産草地研・飼料作環境研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7691、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

家畜排泄物法の施行により塩分濃度の高い堆肥(高塩類堆肥)が生産されているが、この塩分の主成分はKClおよびNaClである。一価の陽イオンであるKやNaが多量に施用されると土壌中の陽イオンバランスが大きく崩れ、生育を阻害することがある。高塩類堆肥を施用する場合、土壌の陽イオンバランスに関する指標が必要となる。土壌の陽イオンバランスを表す指標としてはARKがあるが、これはNaについて考慮されていない。計算式を拡張させた指標ARK+Naを用い、高塩類堆肥を施用する時の陽イオンバランス変化について検討する。

成果の内容・特徴

  • ARK+Naは土壌中の陽イオンポテンシャル評価に用いられているARK式にNaを付け加えたものであり、高塩類堆肥を施用しない作物栽培ではARKと同義である。ARK+Naは1価と2価の陽イオンバランスを表す。
    ARK=-log(K/(Ca+Mg)1/2)
    ARK+Na=-log((K+Na)/(Ca+Mg)1/2) (K、Na、Ca、Mgの単位は当量)
  • 解析データには土壌溶液採取装置(図1)で採取した土壌溶液の陽イオン濃度を用いる。この方法は非破壊で溶液採取が可能なため簡便かつ経時的評価ができ、平衡状態ならば液量が変化しても土壌溶液の成分組成には大きな変動がないことが利点である。
  • 温室で黒ボク土および褐色低地土を用いて1/1000aポットに化成肥料区(N-P2O5-K2O 20-15-15kg/10a)、普通堆肥(牛ふん堆肥, EC値1.81mS/cm)3t/10a、高塩類堆肥(牛ふん堆肥, EC値12.4mS/cm)3t、6t、9t/10a相当混入した区を設けてミニトマト(レッドペア)を栽培し、経時的に土壌溶液を採取した。
  • 供試した黒ボク土を用いて高塩類堆肥を施用した場合にだけ、Ca欠乏症である尻腐果が発生する(表1)。陽イオンバランスの経時的変化を調査すると、栽培日数が60日前後の一段目果実の形成開始時期にARK+Na値が-1.25より低い場合に尻腐果が発生すると考えられる(表1、図2)。ARK+Na値は-1.25という限界値を提示でき、土壌EC値では困難であった高塩類堆肥施用量を決定する指標として目安となりうる。
  • 同じ黒ボク土を用いて無施肥区、高塩類堆肥1t、2t/10a施用区について追加実験すると、尻腐果は発生せず、果実の形成開始時期にはARK+Na値が-1.25よりも高い(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ハウスミニトマトに高塩類堆肥を施用した時の尻腐果発生を予見する指標となる。
  • ARK+Na値-1.25という指標はポット試験におけるミニトマトの算出値であり、他の作物については検討が必要である。

具体的データ

図1 土壌溶液採取装置

表1 尻腐果発症率、栽培60 日目前後のARK+Na、土壌EC

図2 高塩類堆肥施用時の陽イオンバランスの経時変化

図3 高塩類堆肥施用量を2t 以下に抑えた場合の黒ボク土における陽イオンバランスの経時変化

その他

  • 研究課題名:草地飼料作における減肥・減農薬の環境対策技術の検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-r
  • 予算区分:バイオリサイクル
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:江波戸宗大、栗原三枝(福島畜研)