牛の取り扱いやすさを評価するための標準的な逃走距離測定方法

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要約

対象牛の側方から時速約4kmでの接近を標準的な逃走距離の測定方法とする。逃走距離は捕獲採血に対する行動反応や、生理的なストレス指標との関連が高いことから管理作業に対する反応性の指標となる。

  • キーワード:牛、逃走距離、作業性、コルチゾル濃度
  • 担当:畜産草地研・放牧管理研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-37-7245
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

放牧では、管理者に対する牛の粗暴な行動のため、移牧や治療など、誘導や捕獲を伴う管理が困難な場合が多く見られる。そのため、牛と管理者が親和的関係を築くことで、粗暴な行動の発現を抑制し、作業の安全性及び快適性を確保することが求められている。これまで、出生直後のロープ誘導など、牛と管理者が親和的関係を築くための管理方法の研究がいくつか行われてきた。しかし、管理方法が牛と管理者との関係に与える影響について統一的な評価方法がないため、それらの研究がどのような関係になっているのかを比較することが難しく、効率的な技術開発の妨げとなっている。そこで本研究では、牛と管理者が親和的関係を築く管理方法の開発を促進するため、客観的な親和度の指標として用いられている逃走距離(観察者が接近した際に牛が逃走を開始した時の観察者と牛間の距離)について、統一的な測定方法を確立することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 観察者の接近により、牛が逃走を開始した時の観察者に最も近い脚の位置と観察者との距離をメジャーにより測定した。前方からの接近については、測定した観察者と蹄間の距離を観察者と牛体間の距離に近似するため、予め測定した供試牛のき甲部から鼻鏡までの長さを測定した距離から引いた。5回の測定値の平均を個体の逃走距離とした。
  • 逃走距離は前方からの接近が側方に対して有意に短くなり(P<0.05)、それらを結んだほぼ円形の逃走範囲が推定される(図1)。接近速度に対しては高速>中速>低速の順に有意に長くなる(P<0.001)(図2)。測定値の精度は、接近方向について側方からの接近で高く、接近速度については高速・中速の接近で高い(表1)。
  • 測定の精度に加えて、測定条件の統一のし易さや省力性も合わせて勘案すると、側方から約4km/hの速度で接近する方法を標準法として提案する。
  • 放牧牛15頭について、提案した方法で測定した逃走距離と作業性(枠場に追い込み、捕獲した後に採血する時の牛の行動反応の5段階評価(1:扱い易い~5:扱い困難))との間には0.68と正の相関が得られる(図3)。またその際に採血した血液中のコルチゾル濃度と逃走距離の間にも0.48と正の相関が得られる。このことから、逃走距離は管理者自身やその管理作業に対する行動・生理反応の指標となる。

成果の活用面・留意点

  • 牛と管理者との親和的関係を構築する管理方法の開発に活用できる。
  • アニマルウェルフェア評価において、動物反応ベースの評価指標として利用できる。
  • 飼育環境の評価に用いる場合には複数日に測定することが望ましい。

具体的データ

図1 接近方向の影響

図2 接近速度の影響

表1 それぞれの接近方法よる測定値の精度

図3 捕獲採血時の作業性と逃走距離の関係

その他

  • 研究課題名:放牧効果の解明に基づく健全な家畜飼養技術の開発
  • 課題ID:212-d.6
  • 予算区分:科研費(基盤A)、科研費(若手B)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:深澤 充、小迫孝実、小針大助(茨城大農)、塚田英晴
  • 発表論文等:Kosako et al. (2008) Anim. Sci. J.79 (6): 722-726.