エンドファイトが植物体内で産生するN-フォルミルロリンが感染牧草の斑点米カメムシ抵抗性を向上させる

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要約

Neotyphodium属のエンドファイトが感染した牧草から精製したN-フォルミルロリンをアカヒゲホソミドリカスミカメに経口投与すると、孵化幼虫では50ppm以上で、成虫では500ppmで生存率が低下する。また、N-フォルミルロリンを産生する感染牧草を給餌しても生存率の低下が認められる。この化合物をカメムシ抵抗性の主要因と推定する。

  • キーワード:エンドファイト、害虫防除、斑点米カメムシ類、N-フォルミルロリン
  • 担当:畜産草地研・飼料作環境研究チーム、畜産温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-36-0111(内線8572)
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イタリアンライグラスなどのイネ科牧草は、斑点米の原因となるカメムシ類(斑点米カメムシ)の発生源になりやすいため、水田周辺での作付けのためには斑点米カメムシ抵抗性牧草の開発が求められる。Neotyphodium属のエンドファイト(植物共生糸状菌)が感染したイネ科牧草は各種の害虫に抵抗性を示す例が知られ、斑点米カメムシ抵抗性牧草の作出のための遺伝資源としての期待が大きいが、菌が植物に抵抗性を付与するメカニズムは明らかになっていない。そこで、エンドファイトが産生するアルカロイドの一種であるN-フォルミルロリンが、斑点米カメムシの主要種アカヒゲホソミドリカスミカメの生存に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • エンドファイト感染牧草から精製したN-フォルミルロリンを、パラフィルム膜を通して吸汁させる方法(パラフィルム経口投与法)を用いてアカヒゲホソミドリカスミカメに投与すると、孵化幼虫では50ppm以上、成虫では500ppmで明らかに生存率が低下する(図1)。
  • 孵化幼虫の試験開始3日後の生存率は、対照区(0ppm)が90%以上であるのに対し、100ppm処理区では約半数の個体が死亡、500ppm処理区では2日後にすべての個体が死亡する(図1)。
  • 成虫では、500ppm処理区で3日以内にほとんどの個体が死亡する(図1)。
  • Neotyphodium属のエンドファイトの一種で、N-フォルミルロリンを多く産生するN. uncinatumに感染したメドウフェスクをアカヒゲホソミドリカスミカメに摂食させると、生存率は低下する(図2)。
  • これらの結果から、エンドファイト感染牧草のアカヒゲホソミドリカスミカメ抵抗性は、エンドファイトが産生するN-フォルミルロリンによってもたらされると推測する。

成果の活用面・留意点

  • N-フォルミルロリン濃度を指標としたアカヒゲホソミドリカスミカメ抵抗性牧草の選抜が可能になる。
  • アカヒゲホソミドリカスミカメのほかに、アカスジカスミカメ、ホソハリカメムシに対してもN-フォルミルロリンが阻害的な作用を示すことを確認している。

具体的データ

図1 パラフィルム経口投与法によって異なる濃度のN-フォルミルロリンを摂食させた場合のアカヒゲホソミドリカスミカメ孵化幼虫(A)(n=53-58)および成虫(B)(n=50-52)のKaplan-Meier生存曲線(A: P<0.01、B: P<0.01、Log-rank test)

図2 ロリン類のみを蓄積するエンドファイト(Neotyphodium uncinatum)に感染したメドウフェスクの穂(N-フォルミルロリン濃度1224ppm)を給餌した場合のアカヒゲホソミドリカスミカメ孵化幼虫の2齢到達率(A)および羽化率(B)(n=10、 *: P<0.01、 Mann-Whitney U-test)

参考:N-フォルミルロリンの特徴

その他

  • 研究課題名:草地飼料作における減肥・減農薬の環境対策技術の検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-r
  • 予算区分:基盤、小事項
  • 研究期間:2005~2008年度
  • 研究担当者:柴卓也、菅原幸哉、神田健一
  • 発表論文等:Shiba and Sugawara (2009) Entomologia Experimentalis et Applicata 130: 55-62