草地更新により採草地表面の放射線空間線量率と新播牧草中Cs濃度を低減できる

要約

草地更新による採草地表面の空間線量率と新播牧草中の放射性Cs濃度の低減には、ディスクハロー耕のみを使用した簡易更新法でも効果を示し、放射性物質を深く埋没させるプラウ耕を組み合わせた完全更新法ではさらに効果が大きい。

  • キーワード:草地、更新、プラウ、ディスクハロー、放射性セシウム
  • 担当:自給飼料生産・利用・公共牧場高度利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性物質に汚染された農地は東北や関東に広がっている。農林水産省により牧草に含まれる放射性物質の暫定許容値が設定され、多くの草地が利用自粛となった。そこで、採草地における草地更新の有無、その耕起方法の違いが採草地表面の空間線量率及び土壌から牧草への放射性セシウム(Cs)の移行量に及ぼす影響を明らかにすることにより、土壌から牧草への放射性Csの移行低減技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本研究は、採草地において2番草収穫後に、ディスクハロー耕のみによる簡易更新、プラウ耕とディスクハロー耕を組み合わせた完全更新による草地更新を実施した結果を示しており、その手順は表1に示すとおりである。
  • 草地更新前後における10mメッシュで測定した採草地表面(0cm)の空間線量率は、簡易更新区で、平均2.7μSv/hから1.7μSv/hへ、完全更新区では、2.6μSv/hから0.8μSv/hへといずれの場合でも低下する(図1)。このように、草地更新は作業者の外部被曝量低減化に効果がある。
  • 更新作業後の草地土壌中の放射性Cs垂直分布に見られるように、完全更新区では下層(10-20cm)の濃度が高く、簡易更新区では上層(0-10cm)が高いことが草地表面の空間線量率低下の差異についての原因である(図2)。
  • 更新後の新播牧草(オーチャードグラス:アキミドリII)の年内早刈り(12/7)牧草中の放射性Cs濃度は草地更新により低下することから、翌春の一番草においても土壌から牧草への放射性Csの移行を低減できることが期待できる(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:放射性Csで汚染された草地を有する自給飼料生産畜産農家、公共牧場管理者を普及対象とする。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の放射性物質の降下した草地、特に放射性物質汚染対処特措法に基づく除染特別地域及び汚染状況重点調査地域に位置する草地面積を普及予定面積とする。
  • その他:次年度に更新翌年の各刈取番草における放射性Cs濃度について確認し、さらに草地の汚染レベル等の観点を加えて本成果内容の適応範囲を再検討する。

具体的データ

表1 草地更新方法概要
図1 草地更新前後の採草地表面の空間線量率の分布図2 草地更新作業後の土壌中放射性Csの垂直分布
図3 更新後の年内早刈り新播牧草中放射性Cs濃度(平均±標準偏差、n=3)

(渋谷岳、山本嘉人)

その他

  • 中課題名:預託期間拡張を可能とする公共牧場高度利用技術の開発
  • 中課題番号:120c4
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:渋谷岳、山本嘉人、進藤和政、平野清