培地を改変することでより多くのルーメン細菌種が培養できる

要約

分離培養に用いる培地の化学的組成や固化物質を改変することにより、これまで培養できなかった反すう家畜のルーメン細菌が分離できるようになる。

  • キーワード:反すう家畜、ルーメン細菌、分離培養、培地、ゲランガム
  • 担当:家畜生産・第一胃内発酵制御•栄養制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ルーメン細菌による発酵作用(ルーメン発酵)は飼料を分解することにより反すう家畜に栄養を供給している。近年、ルーメン細菌の分子生物学的解析が進み,ルーメン微生物の16S rRNA遺伝子情報,ゲノム情報、メタゲノム情報等の遺伝情報が集積されつつある。これらの遺伝情報を有効に活用するためには、実際に分離培養されたルーメン細菌の遺伝情報が必要である。しかし、培養可能なルーメン細菌種はルーメン細菌種全体の1割程度であり、遺伝情報の活用が進んでいない。

成果の内容・特徴

  • 培地の固化資材である寒天の代替としてゲランガム(ファイタゲルまたはゲルライト)を適用するため、基礎液体培地(BM)に寒天を添加した培地(A-BM)、KH2PO4無添加-MgCl2添加-BM(改変基礎液体培地(MBM))に寒天を添加した培地(A-MBM)、MBMにファイタゲルを添加した培地(P-MBM)、MBMにゲルライトを添加した培地(G-MBM)の4種類の培地を作成する。
  • これらの培地を含む試験管にウシのルーメンから採取したルーメン液を嫌気下で希釈して調製した接種菌液を接種し,直ちに培地を試験管内面全体で固化させてロールチューブを作成する。ロールチューブを38°Cのインキュベーターで培養し,出現したコロニーを無作為に釣菌し、分離菌株とする。分離菌株の16S rDNA遺伝子配列を解析し、細菌種の同定を行う。
  • 4種類の培地から分離された菌株(214菌株)はFirmicutes, Bacteroidetes, Actinobacteria, Proteobacteria, Fibrobacteres, Spirochaetesに分類される。これらの門の各々の培地での分離割合は異なり、培地により分離される菌株の種類に違いが見られる(表1)。
  • 分離菌株(214菌株)は144のOTU(Operational taxonomic unit)に分かれ,既知の培養菌株に属するものは42.4%であったが、培地間で差異が認められ,A-MBM、P-MBM、G-MBMはいずれも対照のA-BMよりその割合が低く,これらの改変培地を用いるとより多くの新規培養菌株が得られる(表2)。
  • Shannon index(多様度指数)はA-MBM、G-MBM、A-BM、P-MBMの順に高くなり、A-MBMにより最も多くの細菌種が分離される(表2)。一方、ゲランガムを用いた培地からは特定の細菌種(Lachnobacteriumに近縁あるいは未同定のLachnospiraceae属に分類される菌種)が分離できることから、これらの細菌の分離にはゲランガムを含む培地が有効である。

成果の活用面・留意点

  • 反すう家畜の飼料分解に重要なルーメン細菌をより多く培養するための基礎的な手法・知見として活用できる。
  • 培養可能となったルーメン細菌の生化学性状や遺伝情報を明らかにし、ルーメン発酵での役割を解明する必要がある。

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:第一胃内発酵制御因子の解明と栄養制御による産肉特性改善
  • 中課題番号:130e0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:三森眞琴、真貝拓三
  • 発表論文等:Nyonyo T. et al. (2013) Lett. Appl. Microbiol. 56:63-70.