耕作放棄地等の放牧における太陽光発電を活用した家畜飲水供給システム

要約

耕作放棄地等の放牧において、太陽光発電を活用し、既存の電気牧柵機器と併用可能な家畜飲水供給システムを構築した。本システムの導入により、併用している電気牧柵機器に影響を及ぼすことなく、放牧家畜の飲水が省力・軽労的に供給される。

  • キーワード:草地、放牧、太陽光発電、家畜飲水、電気牧柵
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放牧家畜の飲水確保は放牧実施のための絶対条件の一つである。そのため、耕作放棄地等の放牧では、農家が水を運搬し飲水槽に補給するなど、家畜飲水供給に多大な労力と時間を要している。一方、これらの放牧現場の多くには商用電源が無いことから、家畜管理のために太陽光発電を利用した電気牧柵器が多く導入されている。この太陽光発電システムを飲水供給のための電源として活用できれば、飲水管理の省力・軽労化が可能となる。
そこで本研究では、既存の太陽光発電電気牧柵システムに直流形ポンプによる揚水システムを組み合わせた、新たな家畜飲水供給技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、放牧地における既存の電気牧柵システムに、直流形ポンプなどを組み合わせ、電気牧柵用の太陽光発電を活用して水源から家畜飲水を供給するものである(図1)。
  • 本システムは、揚水に用いる直流形ポンプ、太陽光発電・蓄電の制御機器および飲水槽などの水位を制御する電気スイッチ機器から構成される(図2)。配管などを除く、システムの導入コスト(2012年8月時点の価格)は、直流形ポンプ(図2中の3)が約2.5万円、太陽光発電・蓄電の制御機器(図2中の2)が約1万円および水位制御のための電気スイッチ機器(図2中の4および5)が約3万円である。
  • 直流形ポンプは小型であるが、送水ホース長100m(内径15mm)の条件下で、揚水高5mでは約500(L/h)、揚水高20mでは約400(L/h)の揚水が可能である(図3)。夏場の放牧牛の飲水量を45(L/日/頭)としたとき、放牧頭数4頭の放牧地では、約0.5時間のポンプ稼働により、1日分の飲水が供給される。
  • 放牧期間中、本システムの導入による電気牧柵線の電圧低下は認められず、飲水は必要な量が安定的に供給され、飲水不足による体重の低下は見られない(図4)。
    また、システム導入中の現地農家圃場(栃木県大田原市:4筆・総面積1.1ha)における2010年~2012年の現地実証においても、本システムは順調に稼働しており、家畜飼養への支障はない。

成果の活用面・留意点

  • 耕作放棄地・水田放牧など比較的小規模な放牧地における家畜飲水供給技術として適用できる。
  • 本システムで用いるソーラーパネルおよびバッテリーの発電・蓄電容量は、家畜放牧頭数や現地の立地条件などを考慮して決定する必要がある。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2012年度
  • 研究担当者:中尾誠司、手島茂樹、進藤和政、山田大吾
  • 発表論文等:中尾(2010)農業農村工学会誌、78(8):677-680