ススキ草地の火入れ処理は植生の炭素と窒素構成を変え植生構造に関与する

要約

火入れ処理により、ススキ草地群落内の地上部のC-N構成は変化する。また、燃焼により多量の窒素が消失しても、高いC-N比構成を持つススキは他の植物種より有利に適応でき、ススキ草地が維持される。

  • キーワード:ススキ草地、植生、炭素・窒素、火入れ、採草
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・草地管理研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ススキ草地は、火入れや刈り払いの管理により維持される日本の代表的な半自然草地であり、生産量が高く、飼料や堆肥資材としての有用な畜産資源を提供するとともに、多様な草原生物種を保持する役割を担っている。植物群落の植生維持および遷移には物質循環機能が強く関わるが、ススキ草地の植生維持機構と物質循環機能の関連性は明らかにされていない。本研究では、ススキが優占する草地に、放棄処理(A区)、採草処理(H区)、火入れ処理(F区)、および火入れ・採草処理(FH区)の区を設定し、各処理区におけるススキ草地の植物体地上部の炭素と窒素の構成量の3年間(2002~2004年)の動きを調査した。その結果に基づき人為的処理にともなう物質構成量とススキ草地の植生維持機構の関わりを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 火入れ(F区)および火入れ・採草処理(FH区)のススキの炭素量、窒素量は、放棄処理(A区)や採草処理(H区)に比べて高い水準で維持される。また、ススキ以外の植物種の炭素量、窒素量は期間中低い水準で推移する(図1)。したがって、火入れ処理はススキの優占化を進め、植物群落中に占めるススキ由来の炭素と窒素の割合は急速に増加する。
  • 火入れ後の灰の炭素および窒素量は29.4、1.1g/m2であり、前年の地上部群落内のCおよびN量の4.5、10.5%に相当する。このことから、燃焼により多量の炭素・窒素が大気に消失したこととなる。
  • ススキのC-N比(平均値64)は、他の草本全種のC-N比(平均値35)と木本全種のC-N比(平均値36)より高い(図2)。また、各草種のC-N比を各々の重量で加重平均した群落全体のC-N比(リターを除く)は、A区とH区(平均値55と51)よりF区とFH区(平均値67と63)で高い。
  • ススキは、高いC-N比構成を持ち、生長や維持に対する現存量当たりの窒素要求量が低いと推察されるため、火入れによって多量の窒素が消失した条件でも、群落内の他の植物種より有利に適応でき、ススキ草地が維持される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、管理に伴う物質循環機能の変動がススキ草地の維持機構に関与することを示唆したものであり、半自然草地の維持管理のための有用な情報となる。
  • 窒素の利用性とススキ草地植生の適応性の関係については、今後検証する必要がある。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術および保全管理技術の開発
  • 中課題整理番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2002~2013年度
  • 研究担当者:板野志郎、坂上清一、中神弘詞、堤 道生、中尾誠司
  • 発表論文等:板野ら (2013) 日本草地学会誌、 59:29-32