ライムギとイタリアンライグラスにおける放射性セシウムのウェザリング半減期

要約

原発事故に由来する放射性セシウムが植物体表面に沈着したライムギとイタリアンライグラスのウェザリング半減期(Tw)は放射性セシウム濃度8.0日と14.1日、放射性セシウム量11.0日と23.1日であり、ライムギのTwは既報値の下限値に近い。

  • キーワード:放射性セシウム、ライムギ、イタリアンライグラス、ウェザリング半減期
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、東日本の広い範囲で飼料畑や草地が放射性セシウム(Cs-134+Cs-137、以下Cs)によって汚染された。事故発生時に生育していた植物体表面上に沈着した放射性Csは物理的減衰だけでなく、風雨による除去および植物組織の欠落や生長などの環境的な除去過程(ウェザリング)によって減少することが知られており、通常、ウェザリング半減期として示される。そこで、本研究では原発事故により放出された放射性Csが直接沈着した冬作飼料作物における放射性Csのウェザリング半減期を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 東京電力福島第一原子力発電所から西南西約112kmに位置する圃場で栽培された飼料用のライムギ(Secale cereale L.)では、2011年3月31日(栄養生長期)から4月27日(出穂期)までの27日間で乾物重あたりの放射性Cs濃度は140.5kBq/kgから13.2kBq/kgまで低下し、面積あたりの放射性Cs量は69.8kBq/m2から12.6kBq/m2まで減少する(図1a)。一方、ライムギ圃場から約40m離れた圃場で栽培されたイタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)では、2011年3月31日(栄養生長期)から5月6日(出穂期)までの36日間で放射性Cs濃度は289.1kBq/kgから50.0kBq/kg、放射性Cs量は154.7kBq/m2から52.4kBq /m2へ減少する(図1b)。このとき地上部乾物重はライムギで0.50kg/m2から0.92kg/m2、イタリアンライグラスで0.54kg/m2から1.05kg/m2へと増加し(図略)、この希釈効果のため放射性Cs量よりも放射性Cs濃度の低下程度が大きい。
  • これら放射性Cs濃度および量の変化から物理的減衰による減少を除き、一次反応にあてはめて算出した速度定数(λw)とウェザリング半減期(Tw)を表1に示す。放射性Cs濃度のTwはライムギ8.0日、イタリアンライグラス14.1日であり、放射性Cs量のTwはライムギ11.0日、イタリアンライグラス23.1日である。
  • 同日収穫した栄養生長期の放射性Cs濃度はイタリアンライグラスと比べてライムギで低く、放射性Cs量も少ない(図1)。Twも短いことからライムギは相対的に放射性Csを保持しにくいことが示唆される。また、様々な草種におけるTwの既報値と比べて両草種とも短く、特にライムギは下限値に近い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 原子力発電所事故直後、沈着により直接放射能汚染された冬作飼料作物における放射性Csの変化とウェザリング半減期を示す知見である。
  • 両供試圃場で2011年10月播種、翌年5月に収穫されたライムギの放射性Cs濃度は平均3.3Bq/kg(水分80%)で、粗飼料の暫定許容値100Bq/kg(水分80%)より著しく低い。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:須永義人、原田久富美、川地太兵
  • 発表論文等:Sunaga Y. et al. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61(2):200-211