畜産廃水活性汚泥処理水中のリン、亜鉛の濃度およびこれらに対するpHの影響

要約

養豚廃水の活性汚泥処理水中の亜鉛濃度は、水質汚濁防止法の排水基準を超過する可能性は低いが、過曝気等によりpHが5以下に低下すると汚泥からの溶出が増加し、その可能性が高まる。リンも同様にpHの8以下への低下により溶出が増え、pHに関わらず、地域によっては高度処理が必要な場合がある。

  • キーワード:水質汚濁防止法、畜産廃水、リン、亜鉛、銅
  • 担当:バイオマス利用・畜産バイオマス
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リン、亜鉛および銅は水質汚濁防止法の生活環境項目に規定される項目である。すなわち、排水量が50m3以上の特定事業所は、亜鉛、銅については各々2mg/L、3mg/L以下に排水中の濃度を抑える必要がある。リンについては、内湾に河川等を通じて排水が流入するなど特定の地域の養豚事業所は、20mg/L以下に抑える必要がある(平成30年まで)。そのため、畜産事業所は放流水中の当該成分の濃度が基準値を上回らないように処理をおこなう必要がある。しかし、その一般的な濃度や影響因子についての情報は少ない。そこで、養豚事業所および酪農事業所におけるこれらの成分濃度について調査を行うとともに、pHの変化に伴う汚泥からの成分溶出について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 養豚事業所の活性汚泥処理施設においては、原水中のリン、亜鉛、銅濃度は浮遊物質(SS)濃度と相関が高いが(2005年度 畜産草地研究成果情報、「浮遊物質の除去処理によって豚舎汚水の全亜鉛、全銅濃度は低減化できる」)、浄化処理によってSSが十分除去されることにより、その処理水中のリン、亜鉛、銅濃度は低下し、結果として亜鉛および銅は、平均値としては上記排水基準値よりも低い(表1)。しかしながら過曝気等に由来する低いpH (4.7)や何らかの理由での高いpH (8.6)が観察された場合では、若干高い濃度(亜鉛、銅ともに、2mg/L前後)が散見され、それらについてはpHの影響が示唆される。リンについては、平均値としても上記排水基準値より高いものであり、高度処理を必要とする場合があり得る(当該基準値は特定の地域の事業所のみが対象)。
  • 養豚廃水の活性汚泥処理槽の汚泥(SS濃度5000~8000mg/L)からのリン、亜鉛、銅の水溶性成分としての溶出は、リンについてはpH8以下、亜鉛についてはpH5以下で、pHの低下にともなって増加する(図1~3)。銅についてはpH3で溶出が増加するものの、水質汚濁防止法の基準値を超える可能性は低い。汚泥に含まれる結晶体のリンや硫化物態等の亜鉛、銅がpHの変化とともに溶出すると考えられるため、pH変動をもたらす過曝気等が生じないように注意する必要がある。
  • 酪農事業所の活性汚泥処理施設においては、リン、亜鉛、銅濃度すべてにおいて、上記基準値より非常に低く、酪農廃水の活性汚泥処理水は規制値を超過する危険性は低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 畜産事業所における活性汚泥処理水の状況と処理施設の運転管理上の注意点を提示する情報である。
  • 処理水中のリン、亜鉛、銅の濃度を低く保つには、活性汚泥処理段階でSSが十分に除去されていることが必要である。
  • リン、亜鉛、銅が高濃度に蓄積した汚泥の場合はより高濃度の溶出がおこる可能性もある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:畜産廃棄系バイオマスの処理・利用技術と再生可能エネルギー活用技術の開発
  • 中課題整理番号:220d0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(公害一括)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:和木美代子、安田知子、福本泰之、黒田和孝、鈴木一好、坂井隆宏(佐賀県)、鈴木直人(沖縄県)、鈴木良地(愛知県)、松葉賢次(宮崎県)、川村英輔(神奈川県)
  • 発表論文等:
    1)Suzuki K. et al. (2010) Bioresource, Tech. 101:9399-9404
    2)Waki M. et al. (2014) Wat. Sci. Tech. 70(4): 593-598