脂肪の結晶化度と結晶多形の非破壊同時可視化技術と豚脂肪の特異的検出

要約

顕微ラマン分光により脂肪の結晶化度と結晶多形を同時かつ非破壊的に可視化する技術である。食肉脂肪の「しまり」等の物性に関係する脂肪の結晶状態を、視覚的に定量評価できるとともに、豚脂肪の特異的非破壊検出が可能である。

  • キーワード:脂肪、結晶化度、結晶多形、食肉、顕微ラマン分光
  • 担当:加工流通プロセス・品質評価保持向上
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 研究所名:畜産草地研究所・畜産物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

脂肪の結晶状態、すなわち結晶化の程度(結晶化度)や結晶の種類(結晶多形)およびその分布は脂肪の物性を決め、食肉においては脂肪のしまり等の評価項目に影響する。脂肪の結晶化度と結晶多形は経時変化するため同時に評価する必要があるが、これまで適切な手法がなかった。顕微ラマン分光は脂肪の結晶状態について詳細かつ豊富な情報を与えるため、ラマン顕微鏡を用いて結晶化度と結晶多形を同時に可視化して評価する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 脂肪試料について、ラマン顕微鏡を用いて顕微鏡視野中の各点より532 nm励起ラマンスペクトルを取得する。得られたスペクトルから、脂肪の結晶化度は次式により定量的に求められる。
    結晶化度(%) = 1.3×(I1130+I1122+I1098) ×100
    I1297+I1305)
    Iは下付き文字で示した波数(cm?1)にピークを持つラマンバンドの面積強度を示す。
  • 動物脂肪の主要な結晶多形であるβ ́型結晶については、次式により定量できる。
    β' 型結晶多形(%) = I1418 ×100
    0.493×(I1297+I1305)
    また、他の主要な結晶多形であるβ型の含量については、

    β型結晶多形(%) = 結晶化度 -β' 型結晶多形

    を初期条件とした多変量解析により得られる、β型結晶の特徴を持つスペクトル成分の量として求められる。
  • 1および2より求めた値をイメージに再構成することで、脂肪の結晶化度および主要な結晶多形の分布を同時かつ定量的に可視化できる(図1)。図1に示すとおり、豚脂肪においては、長期冷蔵保存(4°C、2ヵ月)により生成する粗大結晶はβ型結晶多形であり、脂肪に硬さを与えると考えられているβ ́型多型の結晶ネットワークの連続性に、影響を及ぼしていることがわかる。
  • さらに本手法を用いて、脂肪の結晶化度と結晶多形の畜種による差異を検出することにより、豚脂肪の特異的非破壊検出も可能である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 物性に特徴を持たせた食肉等の脂肪について、その結晶状態の評価に活用できる。
  • 試料にタンパク質など脂肪以外の成分が多く含まれる場合は、スペクトル処理により予め影響を取り除く必要がある。
  • ラマン散乱光は微弱であるため、十分なシグナルを得るために時間を要する。視野が広い、あるいは空間分解能が高い場合には長時間必要なため、試料の温度管理および測定開始時と終了時の結晶状態の変化に留意する。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:農畜産物の品質評価・保持・向上技術の開発
  • 中課題整理番号:330a0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:本山三知代、安藤正浩(早稲田大)、佐々木啓介、中島郁世、千国幸一、相川勝弘、濵口宏夫(国立台湾交通大、早稲田大)
  • 発表論文等:
    1)Motoyama M., et al. (2016) Food Chem. 196:411-417. オンライン公開 2015年9月16日doi:10.1016/j.foodchem.2015.09.043
    2)本山三知代ら「食品中の豚肉を検出する方法」 特開2015-57596号 (2015年3月26日)