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堆肥舎の壁強度設計に必要な、堆肥の密度、粘着力、内部摩擦角の3つの物性値、ならびに切返しの際に壁面に作用する圧力を明らかにした。
環境問題の深刻化と家畜排泄物リサイクルの必要性の高まりから、各地で堆肥化施設が急速に整備され、その規模も次第に大型化している。そのため壁強度についても従来の経験則等による設計では不十分で、安全性や所要強度の裏付けが必要になっている。しかしこれまで、堆肥化施設の壁強度やその設計基礎データとしての堆肥物性値に関して、調査や実験等の報告はほとんどない。そこで堆肥の物理性と実際の堆肥舎での切返し作業時の壁面圧力の計測により、堆肥化施設の壁面に作用する荷重を明らかにし、今後の堆肥舎壁強度設計を適正に行うための資料とする。
堆肥舎の壁に作用する荷重は、堆積堆肥による静的な圧力と、作業機による切返し作業により作用する動的な圧力に分けて考えられる。前者は設計基準が確立されている土質工学的設計手法の適用が可能と考えられ、この手法を用いて壁強度算定を行う際に必要な、密度、粘着力、内部摩擦角の3つの物性値を測定した。後者については、実際の堆肥舎の壁面に圧力センサを設置し、切返しの際に壁面に作用する圧力を測定した。
物性値の測定に用いた堆肥試料は、牛糞にもみがら、おがくず、戻し堆肥を混合した3種類で、それぞれに発酵段階の異なるもの等、全部で12試料である。供試した堆肥の初期密度は0.3~0.9[g/cm^2]の範囲にあり極めて軽量であった。圧縮性が大きく仮に3m高に堆積した場合、下層では2割前後の体積収縮が生じ、密度も2~3割増となると推定された。0.04~0.16[kgf/cm^2]の僅かな粘着力を有し、また内部摩擦角が15~24度と小さく低強度であった。これらの物性値から、3m高さの壁の単位幅当たりに作用する主働土圧の合力は、0~1[tf]と算定され、通常の無機質土に比べ極めて小さいと考えられた(表1)。
実際の堆肥舎における壁面圧力の測定では、最大圧力値は、0.22~0.26[kgf/cm^2]の範囲となり、作業機の最大けん引力をバケットの前面面積で除した値(P)にほぼ一致した。圧力は下側が全般に高く、下隅部で大きな圧力が発生する傾向が見られた(図1)。これらの結果から、切返し時に擁壁に作用する圧力は、基底部の圧力pをP、作用高Hをバケットの高さh×1.4の三角分布圧力と見なせるものと考えられた(図2)。
堆肥の物性と切返し作業時に壁面に作用する圧力が明らかになったことにより、従来経験則等で行われていた堆肥化施設の壁強度設計を、より合理的に行うことが可能となった。
本押圧試験での作業機オペレータは十分な熟練度を有しており、壁面にごく近い位置では速度を減ずる運転をしていた。このため実際の壁設計にあたっては、未熟なオペレータによる運転も考慮し、本報で示す数値に適当な安全率を乗じておく必要がある。