溜池群を有する大規模灌漑地区における異常渇水時の課題と利水危機管理手法

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要約

溜池を有する大規模灌漑地区において、異常渇水による利水危機時に有効な利水運用を行うための課題を明らかにし、その一対策として各溜池の特性を活かした溜池群の管理手法である貯水量高方式を提案した。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・施設管理システム研究室
  • 代表連絡先:0298-38-7666
  • 部会名:農業工学
  • 専門:基幹施設・環境保全・農村整備
  • 対象:維持・管理技術
  • 分類:行政・指導

背景

渇水による用水不足等の利水上の危機が発生した時には計画と異なった利水運用がなされ、干ばつ被害回避の努力がなされる。このような利水運用は、経験の蓄積や水利慣行等に基づいて行われているが、多くの溜池を有する複雑な水利システムの地区、新規に水利施設を整備した地区等の場合にはこの方法では限界がある。このため、平成6年に100年確率を超す異常少雨により利水危機に陥ったA地区の事例を基に、利水運用上の課題を明らかにし、その一対策として各溜池の特性を活かした溜池群の管理手法を提案した。

成果の内容・特徴

(1)利水運用上の課題:A地区では、整備された幹線水路を中心に数千の既設溜池群、既存支線水路等の施設による運用努力に加えて、古い水利慣行の復活、その他の干ばつ応急対策の結果、平年を上回る作況が確保されたが、利水危機に対する利水運用の観点から次の課題を抽出した。
1幹線用水路レベルでは、渇水の進行に伴い地区内で干ばつによる影響の厳しいブロックに対する水の融通が行われた。融通にあたり、地区内各ブロックの干ばつによる影響度を示す情報の内容とその客観的な評価手法、各ブロックへ融通する量、時期の設定システムの確立。
2支線用水路・圃場レベルでは、古い水利慣行を復活させた溜池操作、番水等の水管理が行われたが、昼夜にわキる多大な労力投入の必要、古来の慣習等に基づく方式をそのまま適用することによる不適合部分への対策。また、地区内の各溜池掛かり圃場では、溜池の容量や運用方法等に差があるため、溜池間で干ばつに対する危険度合いの差が顕在化したが、これらの溜池群は同一土地改良区内に在るので危険度合いの平準化が必要であること。
(2)溜池管理手法:以上の課題へ対応するため、地区全体と各ブロックの干ばつ危険度合いを平準化し、水の融通量等を決定する方法として「貯水量高方式」による溜池運用方式を提案した。
1地区内の尾根等で区切られた一定ブロック毎に、各溜池の「貯水量高」(溜池貯水容量V/溜池掛かり灌漑面積A)を定義し、各計算単位毎(例えば半旬)に当該ブロック内の溜池群の貯水量高を同一にするように溜池間の融通または幹線用水路からの補給を行う運用方式である。図-1、2、表-1に1ブロックでの計算結果を示す。例えば、表-1の最低貯水最高の実績と試算を比較すると、試算は溜池間の差が減少しており危険度合いが平準化されている。
各溜池には、位置関係、導水・放流能力の制約、周辺流入等があり、運用後の各溜池の貯水量高は同一値にはならない。
2本方式は、利水者の合意が得られやすい明解で基礎的な諸元に基づく指標に依ること、周辺地下水流入など不明な要素も溜池貯水量に結果として反映されること等の特徴がある。運用には、関係施設の能力的な制約、位置関係から相互融通不可能などの制約条件を加味する必要がある。本方式を地区内の全ブロックで適用すればブロック間の融通量が算出されるので地区全体としての平準化が可能である。
3本方式適用のためのデータは、基礎諸元として各溜池の貯水容量と灌漑面積、変動量として計算単位毎の溜池貯水量に関する情報である。なお、各溜池に恒常的な特徴(地区外からの導水量等)があれば溜池貯水量Vを調整すればよい。

成果の活用面・留意点

本成果は、利水危機時に各溜池掛かりで同レベルの節水対策が採られていることを前提としたが、これらが異なる場合は溜池貯水量vの補正が必要である。

具体的データ

式1 「貯水量高方式」基本式
表1 貯水量高方式による運用結果
図1 1ブロックの溜池諸元と用水系統
図2 主な溜池貯水量高の推移

その他

  • 研究課題名:利水運用システムにおける危機管理方式の解明
  • 予算区分:経常・依頼
  • 研究期間:平成7年度(平成7-9年)
  • 発表論文等:香川用水における渇水時の利水運用実態と今後の課題,農土学会講要集,506、1995
                      異常小雨に対する大規模灌漑地区の水管理対応に関する研究,農工研所報, p.1-38 (1996)