ワイブル分布による頭首工ゲート扉体の耐用年数

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

頭首工ゲート扉体の交換及び塗装の耐用年数を評価する指標として,交換または塗装までに要した時間データへ信頼性工学で用いられるワイブル分布を累積ハザード法により適用し、ワイブル分布のパーセント点が有用であることを確認した。

  • 担当:農業工学研究所・農村整備部・施設管理システム研
  • 代表連絡先:0298-38-7667
  • 部会名:農業工学
  • 専門:農村整備
  • 対象:維持管理
  • 分類:研究・行政

背景

農村施設の適正な耐用年数の評価は、施設の維持管理計画を策定する上で重要である。しかしながら、耐用年数評価のためのデータ収集及び分析はこれまでほとんどなされていない。今後、戦後重点的に設置された施設が順次更新時期を迎えることは必至であり、耐用年数評価のための分析手法の検討が急務である。ここでは、頭首工ゲートの扉体交換及び扉体塗装のデータを基に,耐用年数分析におけるワイブル分布の有用性について検討した。ワイブル分布は、分布曲線の形状が多様であり、初期故障、偶発故障及び摩耗故障を統合的に表現できるため、劣化要因が多様な頭首工ゲートの寿命データ解析に適している。

成果の内容・特徴

  • 分析対象としたデータは、農林水産省構造改善局「ゲート設備更新技術検討委員会」が実施した「土地改良施設(機械・電気設備等)の実態調査(頭首工)」(平成6年)による。この調査は,国営かんがい排水事業により造成された全国111頭首工に対するアンケート調査であり、ここでは、修理履歴が明確であると判断された94頭首工(ゲート数 485門)の扉体交換及び扉体塗装に関するデータを対象とした。
  • ワイブル分布の適用に際しては、ゲートの設置年度、施設諸元及び故障状態に基づくデータ分離が望まれるが、限られた収集事例のフィールドデータであり、また手法の有用性の検討を目的としていることから、それらの条件は同一であると仮定した。
  • 扉体の交換及び塗装についての時間経過10年毎の頻度分布及び各故障データの平均経過年数を図1.1,図1.2に示す。各々の平均経過年数29年及び15年を越えても扉体交換及び塗装が実施されていないゲートが多数存在していることから、故障データのみの平均経過年数を耐用年数の指標とすることは適切ではないと判断された。
  • 交換及び塗装データの累積ハザードプロット及び近似直線を図2.1,図2.2に示す。累積ハザード値は、観測中断時点までに故障のなかったデータをも考慮していることに特徴がある。塗装データではワイブル分布モデルの適合性が高いのに対して,交換データでは比較的適合性が低い。これは塗装の耐用年数に比べて交換までの耐用年数が長いため、これまでのデータ蓄積が十分でないことが原因であると判断された。
  • ワイブル分布の確率密度及び累積分布を図3.1,図3.2に示す。頭首工ゲート扉体の故障累積が50%に達する時点が、一般的な典型寿命を示しており,扉体交換が43年,扉体塗装では26年である。これらの値は,先に述べた平均経過年数と比較して大きな値である。これは、本手法が未故障データも考慮しているためである。
  • 以上の結果より、十分なデータ蓄積のもとでは、ワイブル分布のパーセント点が耐用年数を検討する指標として有用であると判断された。

成果の活用面・留意点

本手法により、頭首工ゲートを始めとした農村施設の耐用年数指標が得られる。ただし、適用には対象施設の諸条件(設置年度、施設諸元、立地、操作、維持管理、修理履歴、故障状態等)に関する体系的な情報収集を前提とする。特に耐用年数の長い施設の分析に際しては、長期間のデータ蓄積が不可欠である。ここでは、指標として50パーセント点に注目したが、施設の故障が受益者等に与える人的・経済的損害が大きな施設については、安全性を考慮してさらに低いパーセント点を採用する必要がある。また、実際の更新時期の判定には、ここで検討した指標以外に経済的指標も考慮する必要がある。

具体的データ

図1 扉体交換と経過時間
図2 扉体交換データの累積ハザードプロット
図3 扉体交換のワイブル確率密度及び累積分布

その他

  • 研究課題名:農業用水路施設維持管理実態の時系列変化の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年~9年
  • 研究担当者:渡嘉敷勝、石田憲治、宮本幸一、木俣勲、堀川直紀
  • 発表論文等:渡嘉敷勝、宮本幸一:ワイブル分布による農村施設の耐用年数分析-頭首工ゲート扉体-、平成9年度農土学会関東支部講要、pp.23~24(1997)